「十勝をパン王国にする」パンと十勝を結びつける満寿屋の地域ブランディングの挑戦
十勝産小麦100%使用にこだわり、地域に根ざしたパン屋「満寿屋商店(ますやしょうてん)」(以下、満寿屋/ますや)。満寿屋は、2030年に十勝がパン王国になるというビジョンを掲げ、実現のために一緒に働いてくれる仲間を探しています。
「十勝はパンに適した小麦が育ち、乳製品も砂糖も酵母も生産できる土地。生産者の顔を見ながら多種多様なパンをつくることができる場所は、日本のどこを探しても十勝にしかありません。地産地消のパンづくりを続けるなかで、十勝の魅力をもっと外に向けて発信するために『2030年十勝をパン王国に』という発想が生まれました」と社長の杉山雅則さんは話します。
「パンは日々食されるものだからこそ、毎日小さな幸せを届けることができます。十勝なら環境に負荷がかからない地産地消にも取り組めるのです。十勝の豊かな農畜産物や資源を使ってここでしかないものをどう生み出すかを追求したい。パンを一つのコミュニケーションツールとして、十勝での取り組みを改めて知ってもらう。それはパンだからこそできるんじゃないかと。だからパン王国というビジョンなんです」
満寿屋が構想する「2030年とかちパン王国」とはどんなものなのでしょうか。前編では十勝が「パン王国」と認知されるための具体的な取り組みと未来の話。後編では実際にこのビジョンに共感し関東から移住して満寿屋で働き始めたスタッフのエピソードを紹介します。
◎こんな人におすすめ
・地域ブランディングに興味がある
・パンや地域で生産される食べ物が好き
・新しいことに挑戦することが好き
・長時間の重労働などがネックでパン職人への道を諦めてしまった
<募集概要>(詳細はページ下部に)
▼パン王国準備室の業務
・地域、社内のためのブランディングを担う業務
・パン王国が実現するために必要なことを提案し実行する業務
▼パンの製造スタッフ
・製パンに関する全ての仕事
仕込み、分割、成形、窯、調理 などポジションごとに学んでいただきます。
・店舗運営業務
生産管理、売上管理、メニュー作成など志向に合わせて、マネージメント、店舗オペレーションの改善などをお任せいたします。
十勝といえば「パン」と言われる日を目指して
北海道・十勝、と聞いてみなさんが思い浮かべるイメージはどんなものでしょうか。牛乳やチーズなどの乳製品で「十勝」と冠する商品が全国に流通しているので、「酪農」が真っ先にくるかもしれません。そして「農業」。農業といっても様々な農産物で生産量一位を誇る生産物がある十勝。「小麦」もその農産物の一つ。十勝地方は小麦の作付面積・収穫量ともに日本一となっており、小麦の生産高は近年平均年間約25万トンにも及ぶ、小麦の一大生産地でもあります。
そんな土地で1950年から営業する満寿屋は、地元で長年愛され続けているパン屋さんです。十勝生まれの筆者も、満寿屋のパンを食べて育ちました。ベビーパン、ねじりドーナツ、ミニクロワッサン…挙げればキリがないのですが、十勝を離れて18年経った今でも大好きなパン屋で、帰省すると必ずパンを買いに行きます。同じような方が非常に多く、十勝のソウルフードの一つといっても過言ではありません。
日本の小麦の生産高の約3割を十勝地方で収穫していますが、その大半を占めるのがうどんなどの麺用の小麦です。国内の多くのパン屋がそうであるように、満寿屋でも長らく海外産の小麦を使用してパンづくりをしていました。しかしある日、農家さんから「このパンには十勝の小麦がどのくらい使われているのか?」と問われたことをきっかけに、十勝産小麦を使用したパンづくりへ舵を切ることを決意します。
「創業時から当社のお得意様は農家さん。農作業の合間の休憩時のおやつとして喜んでいただけるパンをいかにつくるかが重要なことでした。つまり、十勝の農業の発展と我々の商売は共存共栄の関係にあります。パンづくりには小麦以外にもたくさんの農産物が必要で、幸い十勝は恵まれている。この地で穫れたものをこの地で食べる、地産地消が実現できれば十勝がもっと豊かになると考えているんです」
約35年前に始めた十勝産小麦への切り替えですが、道のりは簡単ではありませんでした。幾度もの試練を乗り越えながら、2012年、ついに満寿屋全店で十勝産小麦を100%使用したパンに切り替わったのです。
地産地消を実現させたら次は、「十勝の魅力をもっと全国へ、そして世界中の人へ知ってほしい」との思いが芽生えたと杉山社長は言います。そうして描いた未来が、2030年に十勝がパン王国になる、というビジョンだったそう。
「十勝産小麦のパンが美味しくて価値があることを、地元にも全国の人にももっと食べていただくことで知ってもらいたい。パンを通じて、手間暇かけてパン用小麦を生産することが非常に意義があることだと伝えたい。世界中に流通しているヨーロッパの高級食材として、ワインやチーズ、生ハムがありますよね。それは物流が発達していない、地産地消でしかつくる方法がない時代に極められたものが多いんです。何百年も続けるとその地でしかつくれないものが生まれます。長い目で見ると、ここでしかないものを生み出すことが発展に繋がると思います。そして、当社の発展だけではなく、十勝のたくさんのパン屋さんと協力しながら『十勝といえばパン』と言われるように先頭に立って取り組みを続けたいと考えています」
パン王国になるための4つの柱
では実際に、パン王国とはどういうことなのでしょうか?杉山さんはパン王国になるためには4つの柱が必要だと考えているとのことですが、それは
1.自社の成長
2.十勝産パン用小麦のブランド化
3.十勝の名物パンの開発
4.人材育成
という柱とのこと。ということで、パン王国の絵を見ながら順を追って説明してもらいましょう!
─── まずは左上。赤いゾーンに「5」という数字がありますがこれはなんですか?
これは自社の成長です。具体的には各店舗の売上目標ですが、1店舗あたり年5億円を目指すという「5」です。コロナ禍前に3億円の売上をボヌールと麦音(むぎおと)で達成できました。コロナ禍の影響で下がってはいますが、頑張って目指していきたいと考えています。
─── 右上には、小麦の絵の上に「5万」と書かれています。
十勝でのパン用小麦の生産が5万トンになる未来を想定しています。現在は2万トン弱なんですね。目的としては十勝産パン用小麦をブランド化して全国のパン屋さんで使ってもらう、そして食べてもらうことを目指します。
当社は十勝産小麦を首都圏の方にアピールするため、2016年に東京へ出店しました。残念ながら様々な要因が重なり現在は撤退してしまいましたが、出店により複数のメディアに取り上げていただくことに成功し、反響があり十勝を知ってもらえる機会をつくれました。そういう積み重ねで多くの人に「十勝=小麦」を知ってもらいたいなと思っています。現在は、オンラインでの講演会を積極的に行っています。興味があればぜひ参加してみてください!
最新のオンライン講演の情報はこちらから
─── 右下に移りましょう。右上の小麦の絵の下に工場が描かれ、そこからパンが登場しています。
これは十勝の名物パンの開発をしようということを想像しました。実際に実現に向けて動いているのですが、2012年に「十勝パンを創る会」を他社のパン職人と立ち上げ、十勝産小麦の研究を続けてきました。そこで生まれたのが、「オドゥブレ十勝」というパンです。フランスパンという代名詞があるように、十勝パンという代名詞を作っていきたい。まだまだ知名度としては低いですが、弊社だけではなく、芽室町の「あさひや」と帯広市の「林製パン」でも販売し、地域で取り組んでいるんです。
「オドゥブレ十勝」は様々な組み合わせをしても美味しく食べられるパンとして開発しました。雑煮のお餅の代わりに入れたり、ご飯の代わりしたりなんてことも色々試してるんですよ。今後は「オドゥブレ十勝」も含めたパンの食べ方が様々あることを提案していきたいと考えています。十勝産小麦のパンを食文化として根付かせるためです。オドゥブレ十勝を初めとした満寿屋のパンを使ったメニューを考えてもいきたいですし、一緒に働く方ともアイデアをどんどん出し合っていきたいです。
─── その隣には「50」という数字があります。
これは十勝に住む人一人当たりが一日にパンを消費する平均金額を50円にしようという目標を表しました。北海道ではおおよそ30円くらいです。全国的に高いところでも35円くらいで、十勝だとなんとなくですが、やはりまだ30円くらいだと思います。
─── 十勝ってパン屋が多いイメージがあったので意外です。
そうですね。ただこれは統計が取れないので正確に測るのは難しいです。でも十勝には33万人の人口に対して70軒以上のパン屋があります。人口あたりでいうと日本一と言っても過言ではないかなと思います。十勝=パンという土壌はすでにあるんですよ。例えば香川県に全国からうどんを求めて人がやってくるじゃないですか。十勝=パンというイメージを作ることができたら、香川のうどんのように、十勝に全国からパンを食べにくる人が増える。それができるだけのポテンシャルはあるので、それをどう実現していくかが「とかちパン王国」の推進の一つになるかなと思っています。
─── 最後に左下です。地球の下に「500」という数字があり、その左には学校のような絵もあります。
これは人材育成と教育についてです。十勝のパン職人が活躍してコンテストで優勝したり、パンの学校ができたり—。この学校には世界中から500人の留学生が来るという未来を描き「500」という数字を入れました。学校は「パン」だけでなく「食」の学校のイメージですね。学校では単にパンの技術を教えるのではなく、十勝の地産地消をパンを通じて知ってもらうことをやりたいと考えています。
学校の左側にトラックとピザが描かれていますが、これは2005年から取り組んでいるピザ教室です。石窯を積んだ軽トラックで、十勝をはじめ道内や東京でも開催し、700回以上のピザ体験教室を学校や地域イベントで実施してきました。というところが、この絵で説明ができるパン王国のビジョンと柱ですね。
「とかちパン王国準備室」で一緒に働きませんか?
ここまでとかちパン王国のビジョンを語っていただいた杉山さん。このビジョンを実現するためには、一緒に作り上げていく仲間が必要だと言います。
満寿屋での仕事内容は大きく分けて製造と販売の2つ。そして昨年「とかちパン王国準備室」という部署が設置されました。業務内容は、自社そして地域のブランディング。パン王国に向けて十勝とパンを結びつけて情報発信をしたり、地域の人、観光客の人が関われるイベントの企画などを行っています。
「満寿屋に来ればパン王国を実感できる店をつくりたいです。なぜ十勝産小麦にこだわるのかや十勝産小麦本来の価値をどう知ってもらうかを追求していきたいなと。パンを買った後の食べ方や新しい楽しみ方、そして教育の部分もですし、十勝の自然だけを使ったパンづくりもしてみたいです。みんなの妄想を実現していくのが準備室の役割ですね」と杉山さんは話します。
そして、とかちパン王国準備室 室長の大川原典宏さんはこう話してくれました。
「地元出身者だけでなく、十勝に初めて住む方であっても大歓迎です。地元にいるだけでは見えない外からの視点でパンと十勝を結びつけて、魅力を高めるための気づきを与えてくださる方が理想ですから」
大川原さんは2022年の1年間で54本のイベントを担当し、企画から実施まで奔走し続けました。前職の経験を活かして、生産者さんを招いたトークライブや配信なども行い、パンを身近に感じてもらう企画を日々打ち続けています。
「大変でしょ、と言われることが多いですが僕はワクワクしかしてないですね。なぜなら前提としてあるのが、お店のスタッフたちがパンづくりと販売することにすごく力を注いでくれているから。製造と販売というパン屋の基本があるからこそ、パンを活用したイベントの実行や情報発信ができるんです」
とかちパン王国準備室は、満寿屋そして十勝=パンのイメージを作るブランディングを担う部署。「2030年とかちパン王国」の実現に向けての可能性をもっと探り、計画を詰めていく予定です。
「一緒に働く方にはこれまでの知見や経験を活かして、どんどん提案をしていただきたいなと考えています。本当にまだ計画段階。みなさんの意見次第でどんな風にでも持って行ける状態なんです。だからどんな経験でもパン王国の力になると考えています。こんな経験やスキルがあるから、こういう風に満寿屋や十勝に貢献できる、というプレゼンしてもらうのも大歓迎です。」と大川原さん。
地域産業の発展に向けて、十勝で、パン業界で、そして満寿屋で力を発揮してみませんか?そして、ご興味を持ってくださった方はまず十勝へ来て、パンを堪能してみてください。お待ちしております!
募集詳細
【基本給】
月給 197,500円〜313,500円 ※スキル・業務経験により考慮
試用期間3カ月:基本給と同内容
社保完備
制服貸与
研修制度あり
まかない(食事)あり
交通費支給
バイク・車通勤OK
昇給あり
【諸手当】
・役職手当
・住宅手当20,000円(十勝管外からお越しの方,2年間限定補助)
・交通費:一部支給 ※当社規定による支給
・繁忙期により残業あり(残業代支給有)
・週休2日制/シフト制
・年間休日105日
・有給休暇(入社半年より10日、以降法定通り)
KEYWORD
高山 かおり
音更町生まれ。帯広三条高校を卒業後、北海道ドレスメーカー学院へ進学。卒業後、都内のセレクトショップで販売員として5年間勤務。在職中の2009年、ルミネストシルバー賞受賞。その後都内書店へ転職し、雑誌担当を務めたのち18年に独立。現在は、国内外のマニアックな雑誌に特化したウェブサイト「Magazine isn’t dead.」を運営しながらライターとして活動。Magazine isn’t dead. としては小売だけでなく、国内の雑誌やアートブックの卸売サポート、洋雑誌のディストリビューションなども手がける。19年より、十勝毎日新聞「東京圏NOW」毎月第3火曜の執筆を担当し、関東圏で活動している十勝出身者への取材を続けている。