【滝上町地域おこし協力隊】新しい農業と林業のあり方を目指す北海道・滝上町で地域おこし協力隊を募集!【前編】
野山や川などから、自然のものを採って生活したい。
そんな暮らしに憧れているなら、北海道の滝上町はぴったりの環境です。
北海道の北東に位置する滝上町は四方を山に囲まれた自然豊かな町。東京23区よりも大きな622k㎡の土地に人口2,400人弱が暮らしています。旭川空港から車で2時間20分と決して交通の便が良いとは言えませんが、それだけに人の手が介入しにくく、豊かな自然の恩恵を受けることができます。
たとえば、野生動物の宝庫である山では鹿を見かけることがありますし、山菜やキノコ狩りも楽しめます。
キャッチ&リリースを日本で一番最初に宣言した渚滑川では、ヤマベやニジマスのフライフィッシングを楽しむことができるなど、釣り好きな方にとってはうれしい環境です。
また、芝ざくら滝上公園は国内でも有数の観光地。5月上旬から6月上旬には約10万平方メートルにわたって、芝ざくらが咲き乱れます。
さらに、滝上町は「日本一ゆれない町」であることもご存知ですか?ウェザーニュースによれば、平成に起きた地震の中で、最大震度1の揺れしか起きなかったのは全国でたった2町村。そのうちの1つが、滝上町です。安心して生活できる環境を探している人にとっては、滝上町は魅力的に映るかもしれません。
そんな滝上町は、「林業」と「農業」が主要な産業になっています。
そんな滝上町では現在、地域おこし協力隊を募集しています。その職種は「ハッカ栽培」と「育苗」。じつはこの2つのお仕事は、土地の特徴を活かした滝上ならではのもので、単なる栽培や育苗にとどまらない発展性のある業務なのです。
今回募集しているハッカ栽培と育苗のお仕事と、その魅力とは一体どのようなものなのでしょうか。
まちづくり推進課まちづくり推進係の髙野直之(たかの・なおゆき)さんと、宇佐見卓伯(うさみ・たくのり)さんにお話をお聞きしました。
<こんな方におすすめ!>
・農業や林業、バイオマスエネルギーの活用に関心がある方
・新規就農してみたい方
・自分から仕事ややりたいことを見つけられる方
<募集詳細はこちらから>
▼地域おこし協力隊(ハッカ栽培)
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▼地域おこし協力隊(育苗)
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日本一のハッカ生産を誇る滝上で、「半農半X」を体験できる
─── 今回はハッカ栽培の圃場で働いてくれる方を募集しているんですよね。募集に至った経緯を教えていただけますか?
髙野 滝上の伝統産業である和ハッカづくりを継承してほしいと思ったからですね。ご存じかどうかわかりませんが、滝上町は国内のハッカ生産量日本一のハッカ王国なんです。
北見地方では明治後期からハッカの生産が盛んになり、昭和13年頃には世界のハッカ市場において7割のシェアを占めるなど、世界に誇れるブランド力がありました。ただ、戦時中に思うように生産できなかったことや世界情勢の変化のあおりを受けて、ハッカ農家の数はだんだんと減っていきました。
現在は町内の6戸のハッカ農家がいらっしゃいますが、高齢化が進み、離農していく方も増えています。私たちとしては、滝上の伝統産業である和ハッカの生産技術を継承していきたいと考え、今回はハッカ栽培やその振興に携わりたいという方を募集することにしたのです。
─── 滝上の伝統産業である和ハッカの生産技術を一から学べるなんて、希少な機会ですね。具体的にはどんなお仕事なのでしょうか?
髙野 現役農家さんのお仕事を手伝いながらハッカ栽培について学んでもらいます。滝上のハッカ農家さんのほとんどが栽培から蒸留、ハッカ油の製造までを一元的に行なっているので、未経験の方も一連の流れを経験できておすすめです。
また、「(株)滝上町和ハッカ・ラボ」のお手伝いをしてもらうことも考えています。和ハッカラボでは、滝上町の渓流釣りをするときの虫よけとしてアウトドアミスト「SUUT COOL」を開発していて、そうした商品の宣伝はもちろん、アイディア次第では商品開発に携われる機会もあるかもしれませんし、ぜひ提案してもらいたいですね。
─── ハッカ栽培から製造まで一元的に携われるのは魅力的ですね。でも、ハッカ栽培に携わったことがない方がいきなり「ハッカ一筋」の生活を送るとなると、ハードルが高いと感じる人もいそうです。
髙野 今回の募集では、ハッカ栽培や商品の製造以外にもやっていただくお仕事を用意しています。というのも、ハッカ栽培は秋に収穫・蒸留を終えた後はすることがなく、現役の農家さんでも農業以外のお仕事をされているケースがほとんどだからです。まさに、農業の新しい働き方の一つである「半農半X」ですね。副業も認める方向で考えています。
現在こちらで想定しているのは、鹿をはじめとした有害鳥獣の駆除のお手伝いや七面鳥づくり、冬の除雪作業などですが、「絶対にこれ」という作業は決まっていません。グリーンシーズンはハッカ栽培について学びつつ、冬はご自身にとって心地よい働き方や過ごし方を見つけてほしいですね。まさに、新しい農業の働き方の一つである「半農半X」を実現できると思います。
地域おこし協力隊の3年後の卒業後を見据えた、滝上町での定住や起業に繋げていけるような職種や、それ以外での職種で就業中に副業を希望される場合、町へ申請が必要となります。
──「農業を始めてみたいけれど、そのほかの仕事も組み合わせたい」という方にピッタリですね。ちなみに、失礼ですが、ハッカ農家さんとして独立して生計を立てていけるものなのでしょうか。
髙野 農家さんによって収支の事情は異なるとは思いますが、少なくとも現在ハッカ農家を営まれている方は、所帯を持って不自由なく暮らせている方がほとんどですね。ですので、ご夫婦そろってのご応募も大歓迎です。
農業×林業を軸とした、バイオマスエネルギー活用の最先端
─── もう一つの「育苗」はどういったお仕事ですか?
宇佐見 その名のとおり、トドマツやカラマツ、クリーンラーチなどの苗木を育てるお仕事で、業務を通じて育苗管理に必要な技術を習得してもらいます。具体的には、苗畑での播種、除草・施肥・防徐といった管理、植え替え、出荷作業、ハウス内での培土づくり、挿し木、冬囲い、温度管理作業など、林業未経験の方でも一連の作業の流れを覚えていただきます。
滝上は町の約9割が森林ということもあり、全国的に見ても林業に力を入れている町の一つで、苗木づくりから製材までを町内で行える環境が整っています。希望していただければ、木材製造分野の仕事に携われる可能性もあるので、「未経験だけど、森で働きたい」という方には非常に良い環境だと思いますね。
それから、滝上町の林業は、農業と連携して、地域資源を循環させることに注力していることも特徴の一つです。
─── 「地域資源を循環させる」というのは、具体的にどういうことでしょうか?
宇佐見 たとえば、木を切ったときに商品化できなかった木材や枝があるとします。そうした木材を「木質チップ」と呼ばれるものに加工して、牛舎に敷き詰める敷料使ったり、木質バイオマスボイラーの燃料として使ったりすることで、資源としての木を無駄なく利用しようといった取り組みを行っています。
髙野 それから温室効果ガスの吸収率が高い「クリーンラーチ」という木の育苗にも力を入れているのですが、クリーンラーチをユニークな方法で育てている企業もあるんですよ。町内の福祉施設ではチップボイラーを使用しているのですが、このチップボイラーの余剰熱を隣接する育苗会社のビニールハウスに循環させ、その熱を活用してクリーンラーチの苗木の生育期間を短縮することに成功しているんです。
─── 苗木を育てて製材して終わりではなくて、余った資源も余すことなく循環させているんですね。
宇佐見 滝上町は平成29年に国の関係7府省が共同で推進している「バイオマス産業都市」に認定された町です。なので、林業を軸として森林バイオマスエネルギー活用に関心がある方にもぜひ来ていただきたいなと思っています。
自分の問題意識や「やってみたい」がある人におすすめ
現在募集中の地域おこし協力隊の業務内容と魅力についてお聞きしたところで、実際に滝上で地域おこし協力隊として働いている人のお話も聞いてみましょう。
現在、地域おこし協力隊として働いている佐藤隼輔(さとう・しゅんすけ)さんと尾崎八重子(おざき・やえこ)さんは、2021年から地域おこし協力隊として働き始めています。
佐藤さんは道の駅「香りの里・たきのうえ」で、尾崎さんはハーブガーデンの「フレグランスハウス」というレストランで働いており、今回の募集職種とは異なります。しかし、お二人のお話を聞いていると、職種を越えたある共通点が見えてきました。
その共通点とは「問題意識ややりたいことがある人に向いている仕事」だということ。
お二人が滝上町の地域おこし協力隊になるまでの経緯や滝上の魅力、仕事のやりがいなどについてお話を聞きました。
─── 滝上町の地域おこし協力隊に応募したきっかけを教えてください。
佐藤さん 静岡県磐田市出身で、大学卒業後に就職した地元のソフトウェア制作会社で経理担当として14年間働いていました。30歳を過ぎた頃からまちづくりや地域活性化に興味を持ち始めて、いつかは仕事として道の駅や温泉施設といった地域に根差した施設の運営に携わりたいなと思い始めました。北海道には行ったことがありませんでしたし、さらに北海道の右半分は静岡出身の僕からしたら未知の領域なので、行ってみたいなと思いました。
尾崎さん 私は北見市出身で、父の転勤のたびにオホーツク管内を転々としていたことや、滝上にも祖父の家があったことなどから、滝上町はとても馴染みのある土地でした。大学進学を機に札幌に出て、大学を卒業してからも札幌で4年ほど働いたのですが、働き始めて2年目くらいのときに急に自分のルーツが気になり始めました。
仕事の傍ら、「エゾロック」という団体が運営する北海道の179市町村をつなぐwebメディア「179リレーションズ」でボランティアをして、オホーツク管内に戻る足掛かりを探していました。もともとカフェ勤務やお菓子作りがしたかったので、「オホーツク管内のレストランで働ける求人がある!」と応募したかたちです。
─── お二人とも、場所も職種も希望通りだったんですね。それぞれ、どのようなお仕事をされているのでしょうか?
佐藤さん 私は、道の駅の売店で売上拡大やイベント企画などを担当しています。
たとえば、農家さんが持ってきてくれる野菜のラベルをつくったり、道の駅の商品をふるさと納税の返礼品に登録したり。札幌や旭川などで行われるイベントで商品をPRするほか、道の駅のマルシェや特売イベントの企画・運営をすることもありますね。
自分の創意工夫が毎月の売上目標の達成につながったり、農家さんの商品をふるさと納税の返礼品への登録を頼まれて、実際に返礼品として登録できたりしたときは達成感がありますね。
尾崎さん 私は4~10月に滝上町のハーブガーデン内のレストラン「フレグランスハウス」のホール・キッチン業務をしています。5~6月頃から花が見ごろをむかえ、お客さんにたくさん来ていただいているので、忙しく働いています。
フレグランスハウスで働き始めてから、ハーブに触れるようになって日常生活を送っているだけで花の名前を覚えたり、エディブルフラワーを食べてどんな味なのかを知ったり。知識がどんどん深まっていくのがすごく楽しいです。
─── 反対に、仕事をするうえでちょっと大変だなと思うところはありますか?
佐藤さん 滝上町の売店の商品は圧倒的な知名度があるわけではないので、大都市での催事に出たときはうまくアピールできるような説明やポップを考えるのに苦労しています。
尾崎さん 4~10月はフレグランスハウスの仕事が忙しくて、それ以外の仕事をする余裕がない一方で、冬はほとんど仕事がないんです。なので、夏場に「〇〇がしたいので〇〇をする時間をください」と役場の方にお願いしたり、冬場にできることはないか自分で考えたりしなければいけないことがちょっと大変ですね。
ただ、逆に言うと、自分から提案ができれば希望を叶えてもらいやすい環境だとも思います。私は協力隊になってから1年間、札幌の製菓学校の通信制コースに通わせてもらって「製菓衛生士」というお菓子に関する国家資格を取得したんです。
─── 協力隊のお仕事をしながら、製菓学校に通わせてもらえたんですか?
尾崎さん そうなんです。その資格を活かしてハーブクッキーを3種類作って、フレグランスハウスで販売したこともありました。
佐藤さん じつは私も石川県の金沢で開催された地域創生のセミナーを見つけて、役場の方にお願いして参加させてもらったことがあります。自分の問題意識ややりたいことがはっきりしていて、それを役場の方に提案できる方にとっては、可能性が広がる職場だと思いますね。
─── やりたいことがある方にはほんとうに理想的な職場ですね。最後に、今後やってみたいことを教えてください。
尾崎さん 来年もしくは卒業後に、滝上町のハッカを使ったお菓子を開発して、滝上町に貢献したいなと思っています。
佐藤さん ハッカを使って枝豆を蒸している農家さんがいらっしゃるので、枝豆を使った食べ方の幅広い提案ができるようになりたいですね。メニューを開発する際はぜひ、尾崎さんのお力も借りたいなと思っています。
後編では、滝上町で生まれ育ち、Uターンした「Casochi合同会社」の扇みなみさんと井上愛美さん姉妹のインタビューをお届けします。
<募集要項>
・現在大都市圏、政令指定都市または地方都市(条件不利地域を除く)に居住しており、採用後滝上町に住民票を異動して定住できる者
・普通自動車運転免許を取得している者
・パソコン(ワード・エクセルなど)の一般的な操作ができる者
・他地域に向けて電子媒体等で情報発信ができる者
・活動期間終了後、滝上町において起業・就業して定住する意欲のある者
・住民と協力しながらコミュニケーションを取り、地域活性化に意欲的に行動できる者、各種行事に積極的に参加できる者
・心身ともに健康である者
・地方公務員法第16条に規定する欠格事項に該当しない者
KEYWORD
佐々木ののか
1990年生まれ。筑波大学卒業後、東京の老舗カバンメーカーにて1年間勤務ののちに退職し、フリーランスとして独立。インタビューを中心としたライティング業務を幅広く承っているほか、新聞や雑誌に随筆・書評を寄稿している。2021年1月から音更町に拠点を移し、猫と馬と暮らしています。著書に『愛と家族を探して』『自分を愛するということ(あるいは幸福について)』(ともに亜紀書房)。
絹張蝦夷丸
1990年生まれ。北海道・オホーツク出身。自然とローカルを軸とした企画・運営・プロデュースを行う(株)Earth Friends Camp代表取締役。人生を豊かにする”きっかけ”を提供する自家焙煎コーヒーブランド「KINUBARI COFEE」代表。2022年11月に初の実店舗となるロースタリーカフェ「KINUBARI COFFEE ROASTERS」を北海道上川町にオープン。フリーランスでライター、カメラマン、ハッシュタガーとしても活動している。