【滝上町地域おこし協力隊】「目立つのが苦手な町、だから自由にできる」まちのプレイヤーに聞いた北海道・滝上町の魅力【後編】
北海道の北東に、滝上町という四方を山に囲まれた自然豊かな町があります。
面積は東京23区よりも大きいにもかかわらず、人口はたった2,400人弱。想像しただけで空気がよさそうな気がしてきませんか?
旭川空港から車で2時間20分と決して交通の便が良いとは言えませんが、それだけに人の手が介入しにくく、豊かな自然の恩恵を受けることができます。
たとえば、
自然豊かな山で、山菜やキノコ狩りも楽しめるうえに、
キャッチ&リリースを日本で一番最初に宣言した渚滑川では、ヤマベやニジマスのフライフィッシングを楽しむことができます。釣り好きな方にとっては最高の環境です。
ちなみに、滝上町の面積の約9割は森林。
その広大な森を活かし、滝上町では農業と林業に力を入れています。
ハッカ栽培もその1つ。滝上町は国内のハッカ生産量日本一のハッカ王国で、昭和13年頃には世界市場における約7割のハッカは滝上町を含む北見地方で栽培されたものだったのだとか。
また、滝上町は、育苗から木材の製材までの工程を町内で行える”林業がさかんな町”でもあり、地域資源の循環を目指した先進的な取り組みをしています。
たとえば、不要な木材や枝から木材チップを作り、木材チップを燃料とするチップボイラーを町内のホテルや福祉施設に配置したり、牛舎に敷き詰めたりと資源を無駄なく使えるよう、農業と林業が連携しています。
そんな滝上町では現在、地域おこし協力隊を募集しています。
その職種はなんと「ハッカ栽培」と「育苗」。先ほどご紹介した、滝上町を代表する産業です。
▼仕事内容をより詳しく知りたい方は前編をご覧ください▼
でも、お仕事がどんなに魅力的であっても、移住する前には町の住み心地や近隣に住む人のお人柄もあわせて知っておきたいもの。そこで、後編では、滝上町にUターンして滝上町を盛り上げる活動をしている「まちのプレイヤー」をご紹介します。
今回ご紹介するまちのプレイヤーとは、過疎地を応援する事業を展開しているcasoshi合同会社の扇みなみ(おおぎ・みなみ)さん(写真右)と井上愛美(いのうえ・あみ)さん(写真左)。
お二人はいわゆる過疎地である北海道・滝上町にある井上牧場で生まれ育った姉妹。滝上町で生まれ育ち、進学のタイミングで故郷を離れたものの、現在はふたたび滝上町を拠点にして活動しています。
幼い頃と大人になってからの両方の視点で滝上町を見つめてきた彼女たちに、滝上に戻ってくるまでの経緯と、滝上の魅力、住み心地についてお聞きしました。
住む場所と働き方を見つめ直したとき、滝上が思い浮かんだ
─── お二人のご実家は滝上の牧場で、高校進学のタイミングで札幌まで出られたんですよね。その後、滝上に戻ってくるまではどのように過ごされていたんですか?
愛美 札幌の私立高校に通って美術を3年間学んだ後、北海道教育大学岩見沢校に行きました。卒業してすぐに滝上に帰ってきて、実家の井上牧場で牧場員をしています。
今はもうないんですけど、当時は滝上にも高校が1つだけあって、40人クラスのうちの半分は滝上高校、10人くらいは車で1時間くらいの紋別の高校、もう10人くらいは遠くの学校に行く感じでしたね。
みなみ 私も札幌の高校に通って、横浜市立大学の国際経営科学科に進みました。東京のIT商社で営業として3年間働いた後に結婚して、夫の転勤について青森市と盛岡市に2年ずつくらい住んでから、夫とともに滝上に戻ってきました。
─── もともと滝上に戻ってきたいという気持ちはあったんですか?
愛美 滝上に住んでいた頃はまだ若かったですし、「ないこと」をネガティブに捉えていて、圧倒的なマイナスイメージでしたね。
みなみ ただ、私の場合は会社員として働き始めてから、考えが少しずつ変わり始めました。新卒で入った会社の仕事自体はやりがいがあったのですが、クライアントにとって必要ないものを勧めなければいけないことや、深夜まで働かなければいけないことに関して思うところがあって。そのころは「実家の牧場の牛乳を売れたらいいのにな」なんて漠然と考えていました。
そんなときに、自宅から遠く離れた都心で東日本大震災に遭遇して、東京を離れようという気持ちが強まったんです。
震災からまもなくして大学時代から付き合っていた夫と結婚して、東北に4年間住むことになったのですが、夫はその頃からサラリーマンとして働くことに疲れていたみたいで。
愛美 ちょうどその頃、みなみちゃんとはよく電話していて、私はそのときすでに実家の仕事を手伝いながらパッケージデザインの仕事をしていたし、みなみちゃんと一緒に井上牧場のブログを運営し始めていたんだよね。
みなみ 愛美ちゃんは絵が描けるし、滝上で一緒に何かやりたいよねという話で盛り上がって。夫も実家の牧場で働いたら元気になるんじゃないかとひらめいて「北海道の牧場で働こうよ」と数年かけて説得したんです。
─── みなみさんのパートナーさんは、ゆかりのない滝上に住むことについて抵抗はなかったのでしょうか?
みなみ 彼に北海道に行く気になってもらえるように、お正月やお盆を使って牧場での職場体験を何度かしてもらいました。そうしたら「意外といいね」と言ってくれて。そこから1~2年かけて会社を辞める準備をして、夫婦そろって滝上に戻ってきました。
「顔の見える経済圏」を大切に
─── Casochiの肩書きは「お仕事ユニット」ですよね。具体的にはどんなことをされているのでしょうか?
愛美 大枠で言うと、デザイン業と乳処理業、喫茶店兼ショップ事業の3本柱でやっています。乳処理業は井上牧場の生乳を加熱加工して販売する仕事です。家業ではありますが、井上牧場から生乳を仕入れているので、Casochiの事業としてやっています。
みなみ 喫茶店は火曜日と水曜日だけオープンするので「KARSUI(カースイ)」という名前でやっていて、週替わりのランチメニューが1つとおやつのメニュー1つ、そのほかドリンクなどを提供しています。
地域の中の人と外から来る人が交じり合える場所をコンセプトにしているので、ランチメニューにはできるだけ近隣市町村のものを使いつつ、滝上に住んでいるだけだと触れられないような町外の素敵なパンやコーヒー、雑貨などを販売しています。滝上の外の文化を「輸入」している感覚に近いかもしれません。
それから、初めて来た方がただご飯を食べて、お茶をして帰るようなこともないように気を付けています。
─── え? どういうことですか?
みなみ KARSUIは単なるカフェではなく、人と人とが出会う場所だと思っているので。見たことがない方が来たら「こんにちは」と声をかけて、どこから来てくれたのかとか、どうやってKARSUIにたどり着いたのかを聞くようにしています。
それによって地域の人と外の人がつながることもありますし。顔の見える経済圏はすごく意識していますね。
愛美 その延長線上の話で、最近は宿や不動産運用も気になっているよね。
みなみ 滝上には宿がほとんどないし、カフェの次は宿が必要だよねという話になって、2023年の春から宿泊施設も始める予定です。
滝上の人が減っていって、その分だけ家が空いて、壊されたり放置されたりする状態はあまり好ましい状態じゃない。だから、住む人がいない家を滝上での暮らしに興味がある人にあてがえるような事業もゆくゆくはやっていきたいと思っています。
愛美 いずれにしても、滝上内外の人やモノを出会わせたいという想いはすべての事業に通じているよね。
179市町村の中でも地味めな町、だからできること
─── 滝上の人口が減って、町がさみしくなっていることに対してどういったアプローチをしていきたいですか?
愛美 人数が減ることについては、私はあまり悲しくないんです。
みなみ 別にいいよね。たとえば「2,400人になっちゃった人口を4,000人まで戻そう」ということは個人的には思いません。ただ、私たちがやりたいのは「町に住んでいる2,400人がみんなそれぞれに満足して前向きに暮らせること」で。
自分が「こういう状態だったら楽しいし、ずっと住んでいたいな」っていう町を自分でつくっていっているっていう感じかな。だから、そういうマインドの人にはもちろんどんどん来てほしいし、アクションを起こしたいと思ってもらえるような場づくりは意識していますね。
愛美 私たちが関与したからってわけではないけど、滝上町内にもそういう人が増えてきたし、ほかの町とのつながりも増えてコラボイベントしているのとかを見ると良い流れだなって思ってます。
みなみ ただ、何かをやりたいという人にたくさん来てほしいと思う一方で、穏やかに暮らしたい人にも向いている環境だよね。閉じている雰囲気があるからこそ、周りの目を気にせずに自分の好きなことに黙々と熱中できたり、のんびりできたり、自由にできるというか。
─── 閉じている雰囲気、というのは?
みなみ 知る人ぞ知る町というか、北海道にある179市町村の中でも地味めな町だと思うんです。町自体が目立つことを苦手としているというか。でも、私たちはそのことを否定的に捉えていなくて、誰もやっていないことがたくさんあるからすぐに一番になれるし、何もやらなくても穏やかに暮らせる。
そういうマインドでやっているから、私たちの名前も「Casochi」なんだよね。あり方は変えないまま、ちょっとかわいくしてみたりしながら暮らしが楽しくなるように実験してる。
愛美 そうだね。誰が言っていたか忘れちゃったけど、「陸から来ても、海から来ても、最後にたどり着くのは滝上だ。本当に求めている人だけが来るところなんだ」と言ってたよ。本当にそうだなって思う。
─── ありがとうございます。最後に、滝上町に興味を持ってくれた方にメッセージをお願いします。
みなみ もしも町の様子を見に来たいなという方がいたら、KARSUIでお茶した後に「ゲストハウスふくらい家」のゲストハウスに泊まってもらって、いろいろな人に出会いながら町の暮らしを体験してみてください。ゲストハウスに住み込みをしながら、じっくり考えたい人のご来訪もお待ちしています!
北海道・滝上町ではたらく人を募集しています
「誰もやっていないことがたくさんあるからすぐに一番になれるし、何もやらなくても穏やかに暮らせる」
Casochiのお二人がそう紹介してくださった北海道・滝上町では、地域おこし協力隊を募集しています。募集しているのは「ハッカ栽培」と「育苗」の領域ではたらいてくれる方です。でも、ハッカ栽培や育苗になじみのない方も多いはず。一体どんなお仕事なのか、以下で少しだけご紹介します。
滝上町役場の担当者の方が語る滝上の魅力と、さらに詳しい地域おこし協力隊のお仕事の概要、滝上町で現在はたらいている地域おこし協力隊の生の声を知りたい方はこちらをご覧ください。
ハッカ栽培
和ハッカの栽培が有名な国内生産量日本一の滝上町。滝上町の和ハッカづくりには明治後半から数えて100年以上の歴史があります。滝上町を含む北見地方のハッカは、昭和13年には高品質ハッカとして世界市場の7割を占めるまでに成長していきました。しかし、世界情勢の影響を受け、和ハッカの生産は減少しになり、現在は6戸ほどの農家がハッカづくりを支えています。
今回募集するのは、そんなハッカ栽培の担い手です。
ハッカ栽培自体は9月の収穫期を終えると一旦お休みとなるため、ハッカ農家さんは七面鳥づくりや除雪作業などの副業を組み合わせながら、生計を立てています。今回の募集では、そんなハッカ農家さんの一年を体験していただくとともに、(株)滝上和ハッカ・ラボで商品開発のお手伝いもしてもらうことも予定しています。
ハッカづくりを一から学び、ハッカ農家として独立したいという方はもちろん、ハッカを使った商品・サービス開発などに関心がある方も歓迎です。
育苗
森林が町の面積の9割を占める滝上では、林業が盛ん。苗木の生産から製材工場まで林業基盤のすべてが揃っているため、林業の川上から川下までの流れを知りたい方にはうってつけの環境です。また、林業と農業が連携して地域資源の循環利用を目指しています。
その一つの例が、育苗会社に隣接する福祉施設のバイオマスボイラー。このバイオマスボイラーは余剰熱を隣接する育苗ハウスまで伝え、その熱でクリーンラーチという木を育てるなど、エネルギーを循環させているのです。林業の要であるトドマツやカラマツ、クリーンラーチという苗木づくりに携わりながら、地域資源の循環利用の最先端を見てみませんか?
募集要項
・現在大都市圏、政令指定都市または地方都市(条件不利地域を除く)に居住しており、採用後滝上町に住民票を異動して定住できる者
・普通自動車運転免許を取得している者
・パソコン(ワード・エクセルなど)の一般的な操作ができる者
・他地域に向けて電子媒体等で情報発信ができる者
・活動期間終了後、滝上町において起業・就業して定住する意欲のある者
・住民と協力しながらコミュニケーションを取り、地域活性化に意欲的に行動できる者、各種行事に積極的に参加できる者
・心身ともに健康である者
・地方公務員法第16条に規定する欠格事項に該当しない者
KEYWORD
佐々木ののか
1990年生まれ。筑波大学卒業後、東京の老舗カバンメーカーにて1年間勤務ののちに退職し、フリーランスとして独立。インタビューを中心としたライティング業務を幅広く承っているほか、新聞や雑誌に随筆・書評を寄稿している。2021年1月から音更町に拠点を移し、猫と馬と暮らしています。著書に『愛と家族を探して』『自分を愛するということ(あるいは幸福について)』(ともに亜紀書房)。
絹張蝦夷丸
1990年生まれ。北海道・オホーツク出身。自然とローカルを軸とした企画・運営・プロデュースを行う(株)Earth Friends Camp代表取締役。人生を豊かにする”きっかけ”を提供する自家焙煎コーヒーブランド「KINUBARI COFEE」代表。2022年11月に初の実店舗となるロースタリーカフェ「KINUBARI COFFEE ROASTERS」を北海道上川町にオープン。フリーランスでライター、カメラマン、ハッシュタガーとしても活動している。