「鮭の聖地」から描く、地域と企業の新しい生態系。未利用魚から未来を拓く「ローカルゼブラ」への挑戦
オホーツク海から吹き付ける風が、容赦なく頬を刺す1月の標津町。車を降りた瞬間、肺の奥まで凍りつかせるような凛とした空気が体を包み込みます。港の方へ目を向けると、快晴の根室海峡と知床連山のコントラストが鮮やかに広がります。ここは一万年、鮭と人がともに生きてきた海とまち。日本遺産にも選ばれている「鮭の聖地」です。

そんな町の片隅にある株式会社「しゃけを」の扉を叩くと、代表の椙田圭輔(すぎた・けいすけ)さんが迎えてくれました。
「どうぞ、遠いところを。外は寒かったでしょう」と差し出された温かいお茶。その湯気の向こうで、椙田さんは少し照れくさそうに、けれど真っ直ぐな眼差しで、事業について語ってくれました。

自分の名前に刻まれた、この町との「縁」
「正直なところね、社名がダサいから入りたくないって、面と向かって言われることもあるんですよ」
椙田さんは自嘲気味に、けれどどこか楽しそうに笑いながら、話を切り出しました。社名の「しゃけを」は、自身の昔からのあだ名が由来です。しかし、その名に込められた意味を紐解くと、この地で事業を営む不思議な縁を感じずにはいられません。

「私の『圭輔』という名前、実は親が願いを込めてつけてくれたものなんです。まず『圭』という字。これに魚偏をつけると、鮭(さけ)という字になりますよね。そして『輔(すけ)』は、キングサーモンの和名である『鱒の介(ますのすけ)』から取った。つまり『鮭の王様』という意味を持つ名前だったんです」
一度は北海道を離れ、関西で過ごした時期もありました。そこでは「さけ」ではなく「しゃけ」と呼ばれる文化に触れ、あだ名も自然と「しゃけを」になっていたといいます。どれだけ遠くへ行こうとも、自分の名前には常に標津の象徴である「鮭」の影が寄り添っていたのです。
「もともとここで生まれているし、ここは日本一の鮭の町ですから。自分のルーツと、今の仕事が完全に地続きなんです。あだ名で呼ばれるくらいの方が、この町ではちょうどいい」
そう語る椙田さんの表情には、単なる愛郷心を超えた、ある種の「覚悟」が滲んでいました。鮭も産卵のために、産まれた川に戻ります。地方で生きるということは、自分の名前や歴史を背負って立つということ。身近な人にも「こっちの字の方がかっこいい」と言われて決めたという、少し変わった「しゃけを」という字をロゴに掲げています。

「骨まで丸ごと」味わい尽くす。執念が生んだ特殊製法
現在、事業の柱となっているのはティーパック形式の出汁「しゃけをのTHE北海道だし」の製造・販売です。目指したのは、昆布一強と言われる北海道の出汁文化の中で、新たなスタンダードを作ること。その開発背景には、地域の漁師たちとの連携と、技術へのあくなき探求心がありました。

彼が着目したのは、地元で「鍋壊し」と呼ばれるほど旨みが詰まっている魚ながら、独特の見た目と扱いにくさから敬遠されていた未利用魚「カジカ」です。
「地元の若手漁師グループ『波心会(はっしんかい)』のメンバーと話している中で、カジカが話題に上がったんです。彼らは『出汁にするならカジカが一番だ』と言う。ただ、見た目はグロテスクだし、生臭さもある。これをどう商品化するか。そこにポテンシャルと課題がありました」
単に珍しい魚を使った特産品を作るだけなら、そこまで難しくはなかったかもしれません。しかし椙田さんが選んだのは、骨まで丸ごと活用し、魚の命を余すところなく使い切るという困難な道でした。

「採用したのは、『高温高圧焼成法』という特殊な製法です。魚の切り身だけを使うのではなく、丸ごとプレスする。一瞬で高温の焼きが入ることで、カジカ特有の生臭さが消え、香ばしい香りが立つんです。さらに、細胞壁が壊れることで、通常の1.5倍から2倍の出汁が出る。骨ごと粉砕するので栄養価も高い。これなら、『鍋壊し』のポテンシャルを最大限に引き出せると確信しました」
試行錯誤の末に完成した商品は、北海道のスローフードというストーリーを乗せた「しゃけをのTHE北海道だし」として結実しました。それはポーズだけの地域貢献ではなく、本気で利益を出し続け、生産者にも地域にも還元するための武器でもあります。
カジカの持つ物語をどう翻訳し、消費者に届けるか。そして、それを安定したビジネスモデルにどう落とし込むか。椙田さんの戦いは事業戦略という見えないフィールドでも繰り広げられていたのです。

起業家が地域を創る。「ローカルゼブラ」としての挑戦
「しゃけを」は今、大きな転換期にあります。立命館ソーシャルインパクトファンドからの出資を受け、目指すのは「ローカルゼブラ」としての成長です。

「地域の資源で地域の未来をつくる」。北海道・標津町から“ローカル・ゼブラ企業”のモデルケース構築を目指しています。
急激な成長と売却を目指す「ユニコーン企業」に対し、「ゼブラ企業」は、社会課題の解決と企業としての利益を両立させ、持続可能な繁栄を目指します。地域に根を張り、長い時間をかけて共存共栄していくその姿は、まさに椙田さんが描く未来と重なります。

「今期、ようやく1億という数字が見えてきました。現在は『北海道グミ』などの菓子類が売上の多くを占めていますが、事業の根幹にあるのはやはり『出汁』です。リピート性が高く、日々の食卓に浸透していくものですから。地方にいると、どうしても『手作り』の美徳や、小さな商いで良しとする空気に流されそうになる。でも、僕らが目指しているのは、未利用魚という社会課題を解決しながら、10年後、地域にとってなくてはならない存在、未来の発信基地や明るさの象徴です。
具体的には独自の製造工場の設立、地域の人や観光客が集う直売所・店舗展開、さらなる魅力的な商品開発への着手していき、現在の1億円から、2億、3億、そして10億円規模へ。地域の経済を支える大きな柱、ローカルゼブラになっていきたいと考えています。」

「しゃけをのTHE北海道だし」の後に開発した「北海道グミ」。2025年度北海道お土産グランプリを受賞した。
人口減少が進む地域において、起業家が果たす役割は決して小さくありません。
「起業家こそが地域を創り、未来へつないでいく。その情熱、ある種の『狂気』とも呼べる熱量がなければ、現状を変えることはできません。私が挑戦し続けることで、地域にも影響を与えることができ、より挑戦的で何かをなす笑顔や希望が満ちるような地域にしたいと思っています」
未来の生態系を作る「右腕」の募集
「今は私一人で抱えている部分が多すぎるんですよ。日々の業務に追われ、次の一歩となる新商品開発が後手に回ってしまっています。得意先様へのきめ細やかなフォローや、新規案件に対するスピード感が不足しています。考え方に共感して一緒に進めてくれる人が、どうしても必要なんです」
椙田さんが求めるのは、完成されたスキルではありません。この未完成で、解決すべき課題が山積している道東というフィールドを、面白がれるかどうか。
現在、入社して3ヶ月になる女性スタッフがいます。彼女は当初、バックオフィス業務として入社しましたが、日々椙田さんの横で事業が動く様を目の当たりにするうちに、「自分も外に出て営業に挑戦したい」と自ら手を挙げました。

「その言葉を聞いた時は、本当に嬉しかった。地方のスタートアップですから、丁寧な研修があるわけじゃない。自分で課題を見つけて、転びながらでも勝手に動いていくしかない。彼女のように『自走』できる人が増えれば、この会社はもっと面白くなる」
椙田さん自身も、仕事と暮らしの境界線が曖昧な、道東ならではの生き方を全身で楽しんでいます。カジカ漁について船に乗ることもあれば、休日に釣り糸を垂らすこともある。そのすべてが、この地で生きるという営みそのものです。
「将来的に、私の右腕になってくれる人が現れたら、グループ会社の社長をどんどん任せていきたい。いつか自分の力で起業したいという野望がある人なら最高です。お互いに高め合い、切磋琢磨できる関係になれたら本当に嬉しいですね」

標津の厳しい冬を越え、春になれば、また新しい命が動き出します。その生命の循環と同じように、椙田さんの事業もまた、地域という土壌に深く根ざしながら、大きな海へと漕ぎ出そうとしています。必要なのは、共に悩み、共に未来を描く覚悟。地方発の挑戦に共感し、推進してくれるメンバーです。
取材を終え、事務所の外に出て港を歩きました。この豊かな自然や資源にさらに付加価値を加え、彼らは今日も未利用魚という「影」を、未来という「光」に変え続けています。それは、かつて鮭の聖地として長い年月もの間、人が暮らし続けてきたこの地を、さらにこの先の未来へ繋げていくための、新しい生態系づくりなのかもしれません。

(取材・文:道東ではたらく 編集部)
(撮影:﨑 一馬)
【募集要項】「地域の未利用」を「世界の価値」へ変える、右腕の募集
「しゃけを」が目指すのは、単なる食品メーカーではありません。
道東の「もったいない」を掘り起こし、新たな経済圏を創り出す「地域の総合商社」であり、地域社会と共に繁栄する「ローカルゼブラ」です。
整いすぎたマニュアルはありません。自ら走り、自ら余白を埋めていく、そんな「覚悟」と「好奇心」を持った仲間を募集します。
■ 募集職種とミッション
現在、椙田代表と共に事業をスケールさせる3つの重要ポジションを募集しています。
1. 製造責任者(Manufacturing Manager)
ミッション: 新たな製造拠点の立ち上げと統括。
内容: 製造ラインの設計、品質管理体制(HACCP等)の構築、廃棄ゼロを目指したサステナブルな生産プロセスの確立。
求める人物: 食品製造現場でのマネジメント経験があり、ものづくりを通じて地域課題を解決したい方、新工場設立への意欲。
2. 営業マネージャー(Sales Manager)
ミッション: 「地域の総合商社」として、道東ブランドを全国・世界へ。
内容: 国内外への販路拡大戦略、D2C(自社EC)とオフラインの融合、地域の他事業者と連携した地域商社機能の推進。
求める人物: 法人営業やマーケティング経験があり、道東のアンバサダーとして熱意を持って発信できる方、営業のスピード感。
3. 企画・商品開発マネージャー(Product Planning & Development)
ミッション: 「未利用」を「最高のご馳走」へ。新市場の創造。
内容: 未利用資源を活用した高付加価値商品の企画、ガストロノミーツーリズム(観光体験)の設計、ブランドディレクション。
求める人物: 顧客視点での企画経験があり、食やローカルカルチャーへの深い愛情をお持ちの方。
■ 求める人物像
「自走できる人」 :指示を待つのではなく、課題を見つけて勝手に動き出せる方。
「面白がれる人」 :地方特有の不自由さや、未完成の組織であることを楽しめる方。
「野望がある人」 :将来的に起業したい、あるいはグループ会社の社長を任されたいという熱意のある方。
■ 勤務条件と環境
勤務地: 北海道標津郡標津町伊茶仁87-1(本社事務所・工場)
※車通勤可(無料駐車場完備)。U・Iターン歓迎。
給与: 想定年収 300万円〜600万円
※経験・能力・前職給与を考慮の上、決定。
時間: 8:00〜17:00(休憩1時間/実働8時間)
※残業は基本的にありません。「仕事も暮らしも大切に」が方針です。
休日: 完全週休2日制(土日祝)、年間休日120日、有給取得率8割以上。
諸手当・福利厚生: 交通費支給、社会保険完備、社員割引制度、研修制度あり。
■ 選考プロセス
「まずは話を聞いてみたい」「現場を見てみたい」というカジュアルな面談も歓迎しています。
応募方法: 公式サイトのフォーム、またはお電話にて。
選考方法: オンライン面接(ZOOM等)も対応可能です。
【お問い合わせ・応募先】
株式会社しゃけを 採用担当
公式サイト:https://sakewo.co.jp/recruit/
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「鮭の聖地」から描く、地域と企業の新しい生態系。未利用魚から未来を拓く「ローカルゼブラ」への挑戦
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