COLUMN

暮らしのすぐ隣にいる、ライフライン維持のプロフェッショナル〜設備の仕事〜

#道東ではたらくの新シリーズ 「#美幌ではたらく powered by 美幌建設業協会」。
美幌町建設業協会の代表的な5つの業種で働く方への取材を行い、それぞれの役割や働く人の思いについてお伝えしています。

今回は、いよいよ5つ目の業種、「設備」業です。

 本文に入る前に、いきなりですが、筆者は、この取材の少し前に、設備業について改めて思いを致すできごとに遭遇しました。実家のお風呂でお湯が出なくなったのです。10年以上、来る日も来る日も家族みんなにお湯を供給し続けてきたため、部品が壊れるのも無理はありません。しかし、季節は初冬。寒い中、お風呂でお湯が使えなければ困ります。母は急いで業者さんへ依頼し、幾度かのやり取りののちに、無事、部品を新品に取り替えてもらうことができました。母から私へたびたび届いていた故障から復旧までの経過報告から、お湯を気軽に使えることのありがたさと、安堵感が伝わってきました。

この時、私の家族を「お湯難民」から救ってくれた業者さんこそ、今回ご紹介する設備業、いわゆる「設備屋さん」なのです。この記事では、設備業のみなさんへの敬意と親しみを込めて、文中、「設備屋さん」という言葉も使用します。どうぞよろしくお願いいたします。

設備業にもさまざまな分野が!

 取材に応じてくださったのは、美幌町の設備業、株式会社オホーツク設備です。1970年から業務を始め、ことしで53年。従業員は15人で、美幌町を中心にオホーツク管内各地で設備工事に携わっています。お話は、申請業務を担当している、取締役部長の佐々木伸也(ささきしんや)さんに伺いました。

 「設備屋さん」と一口に言ってもさまざまな分野があり、空調設備の「エアコン屋さん」、電気設備の「電気屋さん」、そして、給排水衛生設備の「水道屋さん」と、大きく3つに分けることができます。

▲今回お話をお聞きしたオホーツク設備の佐々木さん。

 このうち、オホーツク設備では、空調設備や給排水衛生設備の分野を担います。具体的には、エアコンのダクトや配管の工事、道路の下を通る水道管の工事や、給排水の配管工事、お風呂や台所などの機器の設置、それらの修理交換業務などです。依頼は美幌町など行政からが多い一方で、佐呂間町にある「森永乳業」など、企業の工場建設に関わることもあります。また、一般家庭からの問い合わせも日々舞い込みます。
 
 この記事では、「水道屋さん」としてのオホーツク設備のお仕事に注目します。

「水道屋さん」のお仕事、そして、申請業務って?

 私たちの生活に身近な「水道屋さん」。記事冒頭で触れた筆者の実家のお風呂のような、家庭の水道工事が挙げられます。水道屋さんがとりわけ忙しくなるのは、なんといっても、冬。寒さが厳しい地域にお住いのみなさんは、もうお分かりですね。水道管の凍結や水抜き栓からの水漏れなどの対応があるためです。美幌町では、1年を通して、町が指定する事業者が「水道当番」をしています。オホーツク設備を含む5つの事業者が、週替わりで町民からの依頼にあたっています。

▲当番の週は、連日電話が鳴り続けることもあるそう。

 お話を伺った佐々木さんが担当されているお仕事は「申請業務」。取材の少し前に設備屋さんのお仕事を垣間見た筆者ですが、その業務内容のイメージはつきませんでした。「お家や施設など建物に水道を通す工事を行うには、事前に役場へ申請をします」と佐々木さん。そもそも、申請をするのはどうしてでしょうか?

 「蛇口から出る水は、道路の下にある自治体管理の水道管「本管」を通ってやって来ます。水道工事は、清潔な水を供給するという重要な社会インフラに関わること。そのため、工事には必ず自治体の承認が必要で、これは、給水だけでなく排水についても同じです」。

 つまり、自治体の承認がなければ、お家の蛇口から水が出ないということ!申請業務は、工事を進める水道屋さんにとってだけでなく、水を利用する私たちにとっても、とても大切なお仕事だったのです。「水道工事の遅れで建築全体のスケジュールを滞らせるわけにはいきませんので、自治体へ申請をするタイミングは間違えられません」と話す佐々木さんの表情は、責任感と充実感に満ちているように見えました。

図面と向き合い、人と向き合い

 申請に必要な書類は図面だけに留まりません。いつ工事をするかを記した書類、どんな装置を設置するかを記した書類、工事に際して道路をふさぐ場合は、道路を占有するための書類も必要です。そのほかにもさまざまな種類の書類があります。現場ごとにどんな申請書類が求められるか図面をもとに整理し、一つひとつ準備していきます。そして、お客様からの確認、了承を得たのち、ようやく自治体に申請。承認が下りると工事に取り掛かることができます。

▲申請書類が完成するまでには、一般住宅の場合でおよそ2日間かかるそうです。
水道や排水の設備がどこにあるのかを役場で調べた上で現地調査などをしてから、図面作成に取り掛かることができます。

 「申請業務は、現場に入る職人さんの手配にも関わります。その調整は、まるでパズルのようですし、臨機応変な対応が求められますね」と佐々木さんは言います。工事は、いくつもの現場で同時に進んでいます。1つの現場の申請がスムーズにいかず、万が一、遅れが生じると、職人さんの都合がつかなくなってほかの現場にも影響を及ぼす可能性があります。
 
 それぞれの工事のタイミングを見定め、図面や書類を作成しつつ、人員を確保する。水道工事の申請業務は、図面や書類と向き合うだけではなく、自治体の担当者や職人さんなど、多くの人とも向き合うお仕事なのです。「いろんな人と関わることができるのが、この仕事のやりがいでもあります」。

「忘れられない仕事」との運命の出合い

 「短期アルバイトで携わった申請業務の仕事が、忘れられなかったんです」。
 運命の仕事は、思いもよらないきっかけで出合うものでもあるのかもしれません。
 
 美幌町で生まれ育った佐々木さんは、現在43歳、入社15年です。精力的に働いていらっしゃいますが、子どものころから体が丈夫なほうではありませんでした。20代には入院も経験。「働くことは好きだったので、仕事ができないのは、つらかったですね」と、佐々木さんは当時を振り返ります。

▲このお仕事に出合った当時を「楽しかったですね」としみじみ思い起こします。

 退院し、新しい職場での勤務まで少し期間があった佐々木さんは、親戚の紹介で短期アルバイトを始めます。それこそが、オホーツク設備での申請業務だったのです。短い期間ながら、図面や書類を作成し、職人さんとやり取りをし、一般家庭からの修繕の受け付けにも対応しました。
 
 その後、新しい職場で働き始めた佐々木さんですが、設備業でのアルバイトの日々を「よく思い出していました。忘れられなかったんですよね」と語ります。
上司が、図面の作成を優しく教えてくれたこともあり、苦手だったパソコンを使えるようになったことも、嬉しかったそうです。「体の弱い自分でも、できる仕事かも?と思いました」。

 1年後、佐々木さんは思い切って新しい職場を退職し、正式にオホーツク設備の一員に。「この仕事に生きがいを感じているのか、体調もあまり崩さなくなったんですよね。体と気持ちが元気になったんでしょうかね」という実感も、日々が充実していることの表れかもしれません。

 病気によりキャリアが中断されることは必ずしも幸せなことではないかもしれませんが、なにがきっかけで運命の仕事に巡り合えるか分からないものなのですね。

 そんな佐々木さんに、今回筆者が必ず質問したかった「仕事からのリフレッシュ方法」を伺いました。すると即答で「歌を歌うことです!」という返答が!「町の合唱団に所属していて、仕事の後、練習に参加しています」と、プライベートも充実しているご様子でした。

▲ピアノ奥の列の右から3番目が佐々木さん(画像提供 佐々木さん)

さまざまな人に活躍の機会がある

 「建設業」と聞くと、体力勝負で、体が丈夫な人こそ活躍できるお仕事というイメージもあるかもしれません。実際に、取材に伺うまでは筆者もそうでした。しかし、佐々木さんのように、事務の分野で現場を支えるという輝き方も建設業にはあることが、お分かりいただけたかと思います。「帳場(※)は自分が責任を持って守っているという思いでやっています。そして、現場に託しています」。

(※「帳場」とは……商店や旅館などで、帳面に出納を書き付けたり勘定をしたりするところのこと。この場合は、転じて、事務方部門のことを指しています)。

 そう語る佐々木さんですが、現場へ積極的に出向いています。取材の際、「ちょうど今、作業している人を紹介しますよ」と現場に連れて行ってくださいました。

▲この日、とある建物の新築工事でボイラー設備のお仕事をしていたのは、課長の中村直也(なかむらなおや)さん。

佐々木さんと同じく中途入社で、社会人のキャリアは車屋さんから始まったという、中村さん。その後、燃料や設備関係を手掛ける会社で働いたことで「もっと深く設備業に携わりたい」とオホーツク設備に入社し、12年になりました。

 中村さんのこれまでのお仕事の中で強く思い出されることを伺うと、ご本人と佐々木さんが口をそろえて挙げたのが「便槽処理」。いまはめっきり少なくなった汲み取り式のトイレを水洗式に作り替えたり解体したりする際に、便槽(=汚水や汚物を貯めておくタンク)の清掃や消毒などをする作業が「便槽処理」です。
「汚れたところに入るわけですから、心身ともに大変です。思わず尻込みしてしまいそうな作業にも進んで取り組んでいました」と、佐々木さんは入社して間もないころの中村さんを思い起こし、中村さんは「印象的でしたね」と、かみしめるように当時を振り返ります。

 日々お仕事に全力投球な中村さんにも、「お仕事からのリフレッシュ方法」を質問してみました。「職人さんとご飯を食べに行くことですね。気分転換にもなりますし、みんなの気分が上々だと仕事もスムーズです」と、趣味と実益を兼ねた(?)お答えが。雰囲気が明るく風通しの良い現場は、筆者が施主だったとしたらありがたいだろうなと思います。

 私生活の充実で仕事にも張り合いが出ることを、私たちは知っています。ライフラインに携わる「設備業」のみなさんの、お仕事とそれ以外の時間が両方充実することが、私たちの暮らしのより一層の安心につながるのだなと感じました。

 こういった現場での経験を重ねつつも、中村さんは、帳場のお仕事にも携わりました。「いろいろな仕事をしたいと思ったんです。それぞれの分野にさまざまな資格があるので、それらを取得していけば、横断的に関わることができます」。

 一方で佐々木さんは、中村さんのスタイルを肯定しつつ、「私も現場が好きなので帳場だけに留まらずよく出向きますが、人それぞれの『キャラクター』で、どのようにも活躍できると思います」とも言います。自分の担当する分野を深く追求したい人も、さまざまな分野を幅広く経験したい人も、どちらも歓迎し、応援することで、業界を盛り上げていきたいという思いが伝わってきました。

「自分が工事をしてもらう立場になる」

 取材でお話を伺ったお部屋に、会社が目指す「あり方」が掲げられていました。「自分が工事をしてもらう立場になって 責任をもってすべての行動をすること」。これは、すべてのお仕事に通ずることで、当たり前のように思えて、実はたやすいことではないかもしれません。今回取材にご協力いただいたオホーツク設備では、人と人との密な意思疎通や、調整、携わる仕事への誇りと、地域へ貢献するという思いで、それを実現しようとしていることを感じました。

 しかし、佐々木さんはその「あり方」を実現することの難しさをこう語ります。「町からの依頼の工事や、一般家庭の工事など、とにかく仕事がたくさんあり、時には、地域の困っている方のお役に十分に立てていないのが現状なんです。これまでの豊富な経験やノウハウを生かして、もっと対応できる体制を作りたいです」。

 これまでの「#美幌ではたらく」では、どの記事も「人手不足」に言及されていて、設備屋さんも例外ではありません。思い返してみると、筆者の実家のお風呂問題も、設備屋さんが大忙しで直るまでに少しだけ時間がかかりました。これも、お仕事の量に対して働く人の人数が追い付いていないことが一因だったのかもしれません。水道凍結が心配される今の時期に駆けつけてくれる設備屋さんは、私たちのヒーローです。

 地域とともに50年歩んできた会社で、困っている人の助けになりたいと願う佐々木さん。「生きていくための大切な部分を維持するために、日々がんばっています。人と話すのが好きな方は、いろんな人と関わることができるというのもやりがいの1つです」と、設備業に飛び込む新しい仲間を待っています。現場で力を発揮している中村さんは、「人々の暮らしを支えるライフラインを守っているんだという『プライド』をもってできる仕事です」と、自信に満ちた表情で語ってくれました。

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地域の人々に寄り添い、当たり前の暮らしを下支えする仕事。

そんな、誇り高い「建設業」の仕事に、あなたも挑戦してみませんか?

「#美幌ではたらく powered by 美幌建設業協会」。
美幌町建設業協会の代表的な5つの業種で働く方へ取材を行い、それぞれの役割や働く人の思いについてお伝えしてきました。

地域や私たちの「当たり前の日常」を作る仕事、それが建設業。
建設業界にご興味ある方はもちろん、このシリーズを読んだみなさんが、建設業の価値や役割について改めて考えてくださるとうれしいです!

この記事の「設備」業が、今回のシリーズでご紹介する5つの業種のアンカーとなります。

次回は、「#美幌ではたらく powered by 美幌建設業協会」シリーズの結びとして、美幌建設業協会の会長である宮田さんが代表を務める、株式会社宮田建設の「#道東ではたらく」を掲載する予定です。どうぞお楽しみに。

写真:ドット道東編集部

取材・文

伊藤ゆりか

北海道斜里町出身。北海道網走南ケ丘高校、北海商科大学を卒業後、北見市の自動車販売会社に就職。2012年にNHK北見放送局キャスターリポーターとなり、5年間務める。その後、旅行会社での勤務を経て、2020年より司会者任意団体「ボイス・オブ・オホーツク スカイ」に所属。「道東のアナウンサー」を自称し、道東全50市町村で仕事をすることを目標に掲げる。催しなどの司会のほか、FMあばしりのパーソナリティーとして複数の番組を担当。趣味は上達しないカーリング、献血、SMAPを鑑賞すること。今年からは、「声で伝えること」にとらわれないアナウンサーを追求します。次の目的地を目指して。年女、跳ねます!
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