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十勝清水町駅前商店街ビジョンマップができるまで〜あなたが愛さないで誰が清水を愛するんだ!〜

2024年12月北海道十勝の清水町の「清水町駅前商店街のビジョンマップ」が完成しました。この記事では、ビジョンマップができるまでの制作の経緯や裏話、マップについて、ワークショップのファシリテーターを努めた外山暁子がご紹介します!

私を育ててくれた町、清水町

6歳から11歳の、人間形成においてとても重要(だと思っている)6年間を、十勝清水町で過ごした。清水小学校まで往復3キロの道のりを、友達と遊びながら通ったこと、氷の粒が降ってくるような凍てつく寒さの中、指先までしびれながらスピードスケートを滑っていたこと、町内会の宴会はいつでも鳥せい本店だったこと、商店街のパン屋を見学して、すべすべモチモチのパン生地を握りしめて帰ったこと、跨線橋の下の秘密基地、お祭りの日の賑わい…。それらは、30年以上を過ぎた今でも、思い出せば胸のうちをやさしく、あたたかくしてくれる。

清水町は私を育ててくれた、大好きな町だ。

清水町とドット道東

十勝の西側に位置する清水町は、日高山脈のすぐふもと、山や川などの自然が豊かで、公園や病院、図書館、スーパーなどがあり日常生活に不便はない。JRも通っていて高校もある(これは十勝の町村では今や貴重!)。そんな清水町との今回のビジョンマッププロジェクトが始まったのは、2024年夏のこと。制作を担当したドット道東は、2023年度に清水町移住ガイドブック『清水町移住図鑑』、2024年度に『十勝清水冬図鑑』のお仕事をさせてもらっていた経緯がある。

「冬図鑑」は、ありそうでなかった冬の暮らしにフォーカスした冊子。

ドット道東のパートナーライターとして関わる私が、清水町で幼い頃を過ごした経緯を知っているドット道東の野澤さんから声をかけてもらい、プロジェクトに参加することになった。清水のためなら、ひと肌もふた肌も脱ごう!そんな気持ちですぐに快諾した。

商店街に活気を!そのためにビジョンマップをつくりたい

そもそもビジョンマップって?というところから説明をすると、ビジョンマップとは個人や組織が将来の目標や理想像を視覚的に表現したもので、目標達成のためのモチベーションや方向性を明確にするためのツールとして使われている。

 
道東のアンオフィシャルビジョンブック『.doto vol.2』の道東ビジョンマップ

今回のプロジェクトの目的は「清水町駅前商店街のビジョンマップをつくること」。それに対して野澤さんが何度も皆さんの前で言っていたのが「目的はマップを作ることではなく、『何かが動き出す』こと」だった。ビジョンマップで「やりたいこと」を見える形にして実現に向けて動き出す、もしくは動く人を応援する、そのためのビジョンマップにしようと。

そして、ワークショップを重ねてのビジョンマップづくりは、その言葉通り、マップの完成と「動く、応援する」が同時多発的に起きながら進むことになったのである。

町民も町外の人も参加できる出入り自由のワークショップ

まず前提として「町のビジョンを描く」のは「外の」人間ではない。実際にそこに住み、働き、通う当事者の人たちが、どれだけの思いを持っているか、それがどんな規模のまちであろうと、大切だと思っている。

今回もマップを作るにあたり、誰を、どんな風に集めるか、どのように進めるかという議論がまず先にあった。それが2024年7月の準備会だった。

役場側が内部の職員と、特定の有識者を集めて初めからカタチを作ってしまったら、参加者はわずかでも「声をかけられたから」という受け身の気持ちになってしまうことだろう。住民のためのものであるとはいえ、それだけで作っては、小さくまとまってしまう可能性もある。

ワークショップの流れ

だから全3回のワークショップ形式では、住むところにはこだわらず「誰でも自由参加」、強制力のない「出入り自由」ということを準備会に集まってくれた町民の方と決めた。何人が参加するか、どのような結果が出るのか、その都度わからない、ドキドキ感満載のリアルエンターテイメントワークショップである。(事実、野澤さんは毎回ワークショップの前には心をヤキモキさせていた)

高校生から70代の方までが参加してくれたワークショップ

「完成」がゴールではなく「動く」がゴールの全3回

2024年7月、準備会として、ワークショップを始める前に、多くの町民からの「やりたい」「あったらいいな」を集めたいと町民アンケートをとることになった。その出てきた意見をもとにワークショップを重ねてどんなマップを作るか協議し、最終回には次のアクションにつながるような回にして終了する計画だ。

アンケートはグーグルフォームを使って広く集め、結果として100人の「こんなことやりたい」が集まった。中でも清水高校の生徒たちが協力してくれたことが大きく、その後のワークショップでも貴重な意見を出してくれ、また高校生と地元の企業の方たちが共に町のことを話す場所となったことも嬉しかった。

アンケートの一人一人の回答(公開できる範囲)は、以下のURLで公開しているのでぜひ読んでみてほしい。

アンケート結果

みんなそれぞれ欲しいものは結構近いのかなとか、たしかにそれほしい!とか読んでいるだけで楽しくなった。

駅前を普段から使っている人もいれば全く使っていない人もいる。(使う人がたくさんある未来ができるとワクワクするなー)

未来が明るいなとおもったことはこのアンケート結果。「自分でやりたい人はいますか?」という問いに、3割の人が「やりたい」と答えたことだった。この人たちが実際に清水町で何かをはじめたら。もうそれだけで駅前の商店街のシャッターは減る。一人でも多く「やりたい人」の背中を押すことができたらいいなと思うアンケート結果だった。

そしてアンケートで集まった「ほしいもの」はビジョンマップポスターにも記載をすることにもした。

2024年9月 第1回ワークショップ
「そもそも、今すでに頑張っている人がいるよね」

アンケート結果を集計して始まった第1回ワークショップ。会場には商店街の店主たち、地域おこし協力隊員、フリーランス、高校生などが集まった。10代から70代までと、世代も在住歴も様々。老舗喫茶店の店主は「清水町に、こんなに若い人いたんだ!」と純粋に驚き、町の人たちとあまり接点のなかった高校生も「今初めて清水町に来た感じ」と興奮した様子だった。一回目にして、すでに「何かが動く場」ができていたんだなと、今更ながら思う。そもそも、町民が「つどう、意見を言い合う」場所がなかったのだ。

集まったアンケートの結果をみて集まった皆さんから感想をもらった。感想の一覧はこんな感じだった。

・こんなに意見が集まったのがびっくり
・若い人の意見が集まるとは思わなかった
・20代〜30代の意見が少ない
・カフェが多い
・なんとなく実感値に近い気がする
・これだけのことが集まればなにかできる気がする
・未来だけでなく今もちゃんとみるべき、今でもいいお店はある
・やりたいと思う人がこれだけいるのは驚いた
・ちょっと希望が持てた
・言うは易し、実行するのが大変
・熱い人がたくさんいるなーという印象
・頑張りたいなと思った

そしてワークショップ1回目は、4つの班に分かれてアンケートの結果をみんなで見ながら、駅前商店街がどんな風になったらいいか、どんなことが欲しいかなどを話し合ってそれぞれ発表した。

(左)「みんな」の意見だから発言もしやすい (右)清水町の商店街「らしさ」とはなんだろう

・高校生を大事にしたい
・現状学校の下校時間とJRとの接続が悪い。そのため学生は時間を潰す必要があるが、駅周辺にそのような施設がない(カフェ的な飲食ができて休める場所)
・空きスペースの活用、チャレンジショップなどあれば。
・使っていいよ、と言っている持ち主の人がいるがその情報は話だけで終わってしまっている。
・東西に走る通りに対して、南北に商店街があるが、店舗の向きによって光熱費が全然違う!
・小学生・中学生の笑い声が聞こえる時間帯がある→空気感がなごむ
・良い意味で知っている人ばかりだから、気軽に接しやすい
・聞いたら親切に教えてくれる人が多い(逆に、最初誰に聞いたら良いのかわからなかったという声も…)
・清水町商工会の方がとても親身な対応だった!
・地域で周知出来たら、ご近所さん同士で応援しあえる

理想をあげればキリがなくて、「あれが欲しい」「これがあったら」と、どうしても「ない」ものに目が向いてしまう。そんな中、ワークを通じて「そもそも、今、頑張っている人がいるよね」という意見が出てきた。いいものを売っていても、良いサービスをしていても、「知られていない」「発信されていない」という課題は、みんなが共通して持っているものだった。

次回のワークショップは、「今あるものにもフォーカスしよう」と方向性がまとまった。

参加者をつなぐツールとしてLINEを活用。写真や動画の共有、意見収集やイベント告知などにも使われた。

2024年10月 第2回ワークショップ
「郷土愛のある大人」

前回を踏まえて、改めて「今」の商店街の良さを掘り起こすこと、そして、そんな清水町にはどんな人たちが暮らしていたら良いか、それが2回目のテーマであり、実際にビジョンマップに落とし込む項目でもあった。

ワークショップでは、みんなで今の清水町の便利なお店、いいお店などを話し合うばとした。(本当のごく一部だけどこんな話が出てきた)

「アンケートで集めた町民の声」
「そこに住む町民の行動指針」
さらに「今もすでにある商店街の良さや魅力」。

これが加わることにより、ビジョンマップは単なる未来の理想図ではなく、現在の良いところも加えてイラスト化されることになった。

お菓子をつまみながら、お茶も飲みながら、ワイワイ、時に真剣にワークに取り組む。回を重ねると顔見知りも増えてきて、メンバーはまたシャッフルされるものの、和やかなムードでスタート。その次のテーマは「よりよい商店街をつくるためにこんな意識や行動の町民がいるといい?」

大喜利形式にした「こんな意識や態度の町民がいるといい」ワークも、「会ったらお小遣いをくれる人」「いつも暇な人」などクスッと笑える意見も。

ワークを通じた中から浮かび上がってきたのは、「みんな清水が好き」という思い。それは、あるチームから出た「郷土愛のある大人」という言葉に集約されていたように思う。

このワークショップで、またひとつ、動いたことがある。

「商工会の伊藤さんが案内する街中ツアー」と「空き店舗を見学するツアー」だ。伊藤さんが推すえびすや菓子舗の「円盤焼き」を高校生が知らない、食べたことがない、とのことで、後日伊藤さんが町内を案内するツアーを企画。

「じゃあ、今後行こうよ」と快く先導役を引き受けてくれた、商工会の伊藤さん(写真左)

「空き店舗を活用して何かやりたいと思っても誰に聞いたら良いかわからない」「どんな物件が空いているかわからない」という意見から、そちらも町歩きが実行された。

清水高校生ほか数名が参加した伊藤さんの町歩き。店主との交流も深めた。

そして2回目のワークショップのあとには上記の高校生だけでなく、ワークショップに参加した同士での「まち歩きツアー」も開催された。

店舗前で現在の状況や昔は何があったかなどの話で盛り上がり、実際の空き店舗に関しては状況を伝えるとこんなことに使えるね、など実際に見ると活用イメージなどが湧いてアイデアが広がっているようだった。

実際にオープンしている店舗では、入ったことがない方が「一度入ると入りやすくなったので、今度行ってみよう」などという声もあった。

「ぜひ2回目もやりたい!」という声が多く、「実際に空き店舗の中に入ってみるツアーもできたら」という声もあり、事業終了後も、何かしらの形で実施することで、空き家活用の展開が進む可能性がありそうな予感がした。

2024年12月 第3回ワークショップ
4人の登壇者の「やりたい!」を応援する

ワークショップを重ねる間にも、「やりたい」ことがあちこちから出てきた。3回目にして最後のワークショップでは、ビジョンマップの構成要素の確認と、4名の発表者の「やりたいこと、思い」を聞き、どのように応援、実現に向けてのアクションができるか、のワークショップを開催することにした。これこそが「ビジョンマップをつくるだけでなく、動き出す」ということだと思う。

今回は、町長はじめ、商工会などのトップもオブザーバーとして参加。これまでの経緯や4名の発表、ワークショップの発表などを聞いてもらい、意見や感想をもらった。

清水町で生まれ育った有澤佳子さん。

実家は町内で衣料品店を営んでおり、その中にカフェスペースを作り、多世代の交流の場にもしたいと話した。2025年にはカフェがオープンする予定だ。そのカフェのインスタが公開されている。ぜひフォローを!

https://www.instagram.com/tsunagarium_432

→やりたいこと
既存のお店にカフェを併設する
シニア世代と若い世代が交流できるカフェを運営したい
カフェを情報発信の場として、町内の魅力を広げたい
ワークショップや小規模販売イベントの場を提供
→力を貸してほしいこと
ワークショップの講師やアイデア提供者の紹介
地元の食材や情報を提供してくれる人とのつながり
店舗運営に関するアドバイスやネットワーク作り

スポーツを通して町を活性化させたい、と話す大久保航也さん。町内にある事務所をワークスペースやイベントの場として解放する案を模索中。20代の若さでバリバリやっている青年。今後に期待!

・大久保航也
→やりたいこと
スポーツを通じた町の活性化(生涯スポーツの推進)
地域コミュニティの場としての拠点づくり
サウナや子育て支援の拠点として新しい施設を検討

→力を貸してほしいこと
施設の活用案や町民ニーズの収集
地域住民とのネットワーク形成
スポーツ関連のイベントや事業への協力

2022年に移住した梶野健人さん。酪農業に携わりながら大雪山、日高山脈などの自然風景を撮影。2026年にはセルフDIYで旅や移住の拠点となるカフェ、ゲストハウスの建設を始めるとのことで、ゲストハウスの構想や協力してほしいことなどを語ってくれた。後日、みんなでゲストハウス予定地を訪問する企画も開始した。

・梶野健人
→やりたいこと
清水町の自然を楽しめるゲストハウスとカフェを設立
移住体験の場として活用し、町の魅力を発信
移住希望者が町民と交流できるプラットフォームの構築

→力を貸してほしいこと
工事やDIYに協力してくれる人材の募集
クラウドファンディングやSNSの拡散協力
カフェ・ゲストハウスの運営や集客のアドバイス

そして最後に西邑柾人さん。2年前に誰も知り合いのいない清水町に移住。酪農関連の仕事をしながらWEBデザインも手がける西邑さん。まだ具体的な構想はないが、町内で事務所兼カフェのような場所が欲しいと考えている。2025年には物件を決めたいと意気込んでいた。西邑さんは今回のワークショップでも終了後に毎回、懇親会の段取りをしてくれた。町の人にも愛されている様子が傍から見ても感じることができた。ぜひ西邑さんに情報提供を。

・西邑柾人
→やりたいこと
町内で使えるコワーキングスペースやフリースペースの設置
ボードゲームなど、年齢を問わない遊び場の提供
若者や地域住民が日常的に交流できる場所をつくる

→力を貸してほしいこと
空き店舗情報の提供
コーヒーやフードに関するアドバイス
活動に共感してくれる仲間作り

そして4名の発表後にはワークショップ。興味がある内容、応援したい、もっと話が聞きたい発表者のもとに分かれてのワークを行い、2025年にできることを発表しあった。

町長が言う「まちづくり、一緒にやっていきましょう」

今回オブザーバー参加の皆さんが口々に発していた言葉がある。それは、「一緒に」やっていこう、考えよう、と言う言葉である。まず、誰よりも先に町長がおっしゃっていた。「まちづくり、一緒にやっていきましょう」と。

大きな自治体になればなるほど、個の力は薄れ、小さな自治体であればあるほど、個の持つ力、影響力はとても大きくなる。その中で4人もの人が手を挙げて、30名ほどの人がその事実を知り応援すれば、町はあっという間に変わるのではないだろうか。少なくとも、参加者の「意識」は変わるだろう。

「まちづくり」と重たく構えなくても、誰かの夢を応援する、自分にできることをする、発言する、発信する…。大きく見えるような出来事でも、結局は小さなひとつ一つの積み重ねの上でのことでしかない。

ないものをあるようにしていくには、「やりたい人を増やす」ことと、「応援する人を増やす」こと。そのためには、実行回数を増やすこと、つまり接点を増やすこととも言い換えることができる。

発表者やそれぞれのワークの発表を聞いて、オブザーバーのコメントにも熱が入る。

今回ワークショップを重ねながら、町歩き企画が生まれたり、空き店舗を見学するツアーができたりと「実行回数」が増えてきた。それこそが、野澤さんが目指していたことであり、ビジョンマップはそのための理想地図であり、志を忘れないための約束の地図でもある。

ワークショップは12月で終了となったが、この後、実際のマップの完成や空き店舗ツアー、発表者の次のアクションなど「実行」は続いていく。これからも、自称「清水育ち」の自分としては、そんな清水町の挑戦を見守り応援していたい。それは町民じゃなくてもできること、誰にでもできることだ。

次代のまちづくりのキーワードとなるのは「みんなで」という意識、シェアの価値観だと思う。誰かが旗振り役をしてくれるわけでも、スーパーヒーローが現れるわけでもない。まちを活性化できるのは、そこに関わる一人ひとりが動き出してこそだ。

そう「あなたが愛さないで、誰が愛するんだ!」ということに尽きるのである。

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行動指針・町民から聞いた駅前小ネタ・町民の声をぎゅっと一枚にしたビジョンマップ

現在実際にある商店街に、プラスして未来の賑わいを…という難題に応えてくれたのは、イラストレーターのあみさん。現店舗の配列や売っている商材、人などはなるべく忠実に再現してもらい、現在空き店舗となっている物件には、町民から集まった「こうしたい」が実現されている様子が描かれ、活気ある商店街が生まれた。

この「町民から聞いた駅前小ネタ」は、ワークショップでの意見や清水町商工会が出している冊子「しみずのかお」から抜粋。マップ上にも反映されていて、アイテムを探す楽しみも。

さらに、アンケートで集めた町民の声も集約して反映。みんなの言葉で「こんな町にしたい」ビジョンマップが出来上がった。

マップは町内の店舗等で掲示されるほか、公共施設などで目にする機会もあるだろう。町に住む、関わる人には誇りを、まだ知らない人には「行ってみたい」「住んでみたい」と思ってもらえるようなら、このプロジェクトに参加した1人として嬉しい限りである。