理想の暮らし方を考える一歩を、北海道浦幌町で。ポータルサイト&就業体験「つつうらうら」を始めます
道東のはたらく情報を発信する「#道東ではたらく」。今回は、北海道浦幌町(うらほろちょう)で新たに始まるプロジェクト「つつうらうら」を紹介します。
「地方や道東に興味がある」「いつか関わってみたい」
そう思っていても、地方で本当にやりたいことをできるのか、仕事はあるのか、人間関係を築いていけるのか……不安になる要素がたくさん思い浮かぶかもしれません。
今回紹介する「つつうらうら」は、そんな不安を解消して、気軽に町と関わるきっかけを提供するプロジェクトです。町の情報を発信するだけでなく、町外の人が浦幌に短期滞在しながら町のことを知れる就労体験を用意しています。
「移住」と言われたらハードルが高いけれど、まずは足を運んで町との関係づくりを始めてみることから。どんな仕事があるのか不安であれば、数日間お試しで働いてみるところから。
「つつうらうら」は、仕事のお試しから町と出会えるプロジェクトです。
でもそもそも、浦幌ってどんな町なんだろう? 就労体験したら、どんな人に出会えるんだろう?
そんな疑問を解消するために浦幌へ行き、たくさんの方とお会いしました。そして見えてきたのは、浦幌は「他人ごと」ではなく「自分ごと」を持っている人がたくさんいる町だということ──。
若い世代が続々と集まってくる町、浦幌町
元気な若い世代が、たくさんいる。これが、北海道浦幌町を訪れた最初の印象でした。
浦幌町は、気軽に行きやすい場所かと言われればそうではなく、若い世代を惹きつける人気の観光地でもありません。
一見すると、この町に来るわかりやすい理由はないように見えるかもしれない。
そんな浦幌町に、5年ほど前から、20代を中心にした若い世代が集まってきています。Uターンだけでなく、出身者でない人も続々と浦幌町に移住しているのです。
最近ではゲストハウスができたことで、ゲストハウスの仕事を手伝いながら町に短期滞在するヘルパーが、全国各地からやってくるようになりました。木炭づくりや新聞配達などの地域で人手が足りない仕事も手伝い、短期滞在する若者と地域の人が交流する光景が日常になっています。
そして浦幌で出会う若い世代と話していると、気づくことがありました。浦幌出身であろうとそうでなかろうと、浦幌への思いを持って自分の言葉で話してくれたり、この町の未来を真剣に考えて行動していたり。
それぞれが、自分の思いを持って、自分の意志で浦幌にいるのだ、と。
「いつか道東に戻りたい」気持ちを叶えるために、新卒で入社した東京の会社から、浦幌のゲストハウスに転職した人。
地元である浦幌でいつかお店を立ち上げると決めて、町外で経験を重ねたのち、有言実行してレストランを開いた人。
高校生の頃に一度来たことがあった浦幌町に引っ越すと決めて、やりたかった写真の仕事をしている人。
昭和初期から続いてきた地元の蕎麦屋の閉店が決まったとき、後継ぎとして手を挙げて、ゼロから蕎麦打ちの修行を始めた人。
知り合いがいるから、と初めて浦幌に遊びに来た3日間で就職先が決まり、2回目には浦幌に移住しに来た人。
出身地も、浦幌に来た理由も、選んだ仕事も、人それぞれ。それでも浦幌で暮らすことを決めた理由は、どこにあるのだろう?
若い世代が今、浦幌に惹きつけられている魅力を知りたい。そう考えて、浦幌に移住してきた一人である小松輝(こまつ ひかる)さんにお話を聞いてみることにしました。
徳島県出身の小松さんは、新卒で浦幌町の地域おこし協力隊に就職。協力隊卒業後も浦幌に残り、ゲストハウス「ハハハホステル」を立ち上げて経営しています。
小松さんは大学でまちづくりについて学びながら、実践のために企業でインターンシップをしていました。インターン先の会社が浦幌の事業も手がけていたことがきっかけで、小松さんは初めて浦幌に足を運びます。
その後、大学在学中に何度も浦幌を訪問。当初は浦幌で暮らす選択を考えていなかった小松さんですが、夏休みを使って浦幌に1ヶ月滞在するうちに、少しずつ「浦幌で暮らすこと」に興味を持つようになったと言います。
とはいえ、浦幌への移住者は珍しかった時期。移住者が集まっていた各地の事例が話題になっていた時期に、あまり知られていなかった浦幌への移住を決めた理由とは?
「有名になっている地域って、すでにたくさんのプレイヤーが移住していたんですよね。でも僕は『先進的なまちづくりを学びたい』のではなく、自分も『まちづくりの担い手』でありたかった。浦幌なら、自分が関われる余地があるだろうなと思ったんです」
そして2017年、大学卒業と同時に生まれ育った徳島を離れ、浦幌に引っ越してきました。
この場所なら何でも挑戦できる、と思えた理由
浦幌に来て、観光事業を担当する協力隊になった小松さん。協力隊は卒業後に起業のミッションがありますが、小松さんは浦幌に来た当初、浦幌で仕事をつくれる未来は見えていなかったと言います。
「浦幌でやりたいことに挑戦している若い世代が少なかったので、浦幌での起業がうまくいくかは正直わからないなと思っていました。でも、ビジョンが見えないからこそ、見えない未来をつくっていくことにやりがいを感じましたね」
新天地で人間関係を積み重ねていった先に、何をどれくらいできるか試してみたい。協力隊の任期が終わった後も浦幌に残ろうと決めていた小松さんは、地域での関係づくりに向けて動き出します。同期がいなかった小松さんは、ときどき悩むこともあったのだとか。
「仲良くできる同世代がいなかったですね。今は状況がだいぶ変わりましたが、当時は協力隊の先輩と仕事で関わっても、同世代だけで集まったり悩みを相談したりする機会はありませんでした」
それでもがむしゃらに走っていくうちに、浦幌に来た当初は見えなかった未来を思い描けるようになります。
「酪農家さんが声をかけてくれて、仕事の合間に酪農バイトを始めました。酪農の仕事をするようになってから、『もし事業がうまくいかなくても、この仕事で食べていける』と思えたんです。そして浦幌で、何か困ったら頼りに行けるような、支えになる関係にも恵まれました。
食べていけて、人間関係もあれば、何をしても生きていけるじゃないですか。だから、『浦幌で何でも挑戦できる』『失敗しても大丈夫』と思えるようになりました。その頃から、浦幌で生きていくビジョンを描けるようになったんですよね」
自分は地域の担い手になれているのか?
小松さんは浦幌に来て2年目の冬、「浦幌で宿をやってみよう」と決意します。実はこの決断に至るまで、悩んだ期間があったのだとか。
「それまで手がけてきたツアーだとお客さんが浦幌に滞在する期間が短いし、事業として成り立たせるのが難しいんですよね。それに、観光に来た若い世代が集まりやすい宿が浦幌になかったので、だったら自分がやるしかないのかな、と思い始めていました。
でも、気づいていたけれど、やりたくはなかったんですよ。不動産を持つとか、宿をやりたいとか、思ったことがなかったから。あったらいいな、誰かやってくれないかなと(笑)」
それでも小松さんが自分で宿を始めることを決意したのは、「どんな自分でありたいか」を考えたから。
「こうなったらいいのに、と言うけれど、自分ではやらない。やってくれる人が来るのを待っているだけ。そういう自分に対して、『これが自分の目指していた姿なのか?』と葛藤しました」
さかのぼれば、小松さんが浦幌に来ることを決めた理由は「まちづくりの担い手でありたかったから」。今の自分は地域の「担い手」たり得ているのか、と自問自答します。
小松さんの考える担い手とは、「やらされている感覚ではなく、やりたいからやっている感覚を持って動いている人たち」のこと。
「この景色が守られていったらいいな」と外から願うのではなく、「この景色がいいから移住してきました」と言いながら景色を守るアクションをしないのでもなく、「この景色を守りたい」と思って、守るための行動を自分から起こせる人。
「自分も担い手でありたい」と思っていた原点に立ち返った小松さんは、自分の意志で決意を固めます。
「地域の担い手として自分が行動を起こさなければ、何も変わらない。浦幌に来てからそう痛感していたから、それなら自分でやろう、と決めました。自分を変えたかったんです」
こうして小松さんは浦幌に来て4年目の2021年、浦幌で初めてのゲストハウス「ハハハホステル」をオープンしました。
仕事をきっかけに、自分が「ここにいる理由」を探す
浦幌に来て5年。挑戦を続けてきたことで、小松さんに変化があったといいます。
「自分の暮らしがどうこうと考えるよりも、ここで暮らす若い人たちを増やすために自分は何ができるのか、と考えるようになりました。地域で暮らす人が増えたらいいなと思っていて、そのために動くことにやりがいを感じています」
浦幌で暮らしたいと思った人が、暮らせるように。小松さんは「仕事」を可視化することに注力しようと動き始めています。
「浦幌で暮らしたいと思っていても、『働く場所がない』という課題をよく聞くんですよね。本当は働く場所はあるけれど、若い世代に情報が届いていなかったりロールモデルがいなかったりして、自分が浦幌で働いているイメージを持てないんだと思います」
小松さんは、浦幌で働いている若い世代の選択を見せられるように、浦幌町からの委託事業として新たなプロジェクトを始めました。浦幌での仕事について情報を発信し、お試しで短期的に就業できる「つつうらうら」です。
仕事をしながら浦幌での暮らしを体験してみることで、地域の人と関われたり、観光とは違った視点で浦幌のことを知れたり。さらには、自分の暮らし方を考えるきっかけになれば、と小松さんは考えています。
「仕事って目的じゃなくて、自分が理想とする暮らし方や生き方を実現するための手段だと思うんです。だから、自分はどうやって生きていきたいのかを考える材料として、どういう仕事をしたいのかを考えるヒントになったら良いなと思いますね」
小松さんの思いと、働き手を求めていた町内の事業者からの要望が一致し、すでにたくさんの事業者が受け入れ先として決まっています。
この就業チャレンジプロジェクトを小松さんに依頼したのは、浦幌町産業課の小川博也さん。小川さんは「つつうらうら」を通じて「生き方の選択肢を知るチャンスを提供できたら」と話します。
「移住するって、覚悟しないと決断できないですよね。ですから今回のプロジェクトを通じて、浦幌と関わるハードルを下げられたらと思っています」
小川さんは、浦幌で暮らす若い世代から「浦幌で何かやってみたい」と挑戦への思いを聞いたこともきっかけの一つとなり、このプロジェクトを企画しました。
「今回のプロジェクトでも、来てくれた方にとって、浦幌での経験が人生の指標やきっかけになったら良いなと思っています。誰でも気軽に来てもらって、浦幌で何かしらやってみたいことがあるなら『なんでもチャレンジしてごらん』と言えるような受け入れをしていきたいですね」
人生の選択肢を考える手段として、浦幌で仕事にチャレンジする。このプロジェクトの背景には、浦幌で「どう生きたいか」という問いと向き合ってきた小松さんの思いがありました。
「浦幌にはわかりやすい『住む理由』があるわけじゃない。だからこそ僕は浦幌に来てから、ここにいる理由をどれだけ自分でつくれるか、と考えるようになりました。自分がここにいる理由を探すことが、何を大切にして生きていきたいかを見出すことにつながると思います。
自分が楽しいから、人の役に立つため、周りの人たちのため、と理由は人によって違うし、誰かと比べる必要もなくて。自分だけの理由を探すきっかけとして、『つつうらうら』を活用してもらえたら嬉しいですね」
就業チャレンジを通じて、今自分がここにいる理由を見つけてみること。
そのために、「誰かがやってくれたらいいな」ではなく、自分が動いてみること。その先に見出した「人生において大切なもの」なら、きっと「自分ごと」にできる。
ゲストハウスを「自分でやろう」と決めた日から、浦幌での積み重ねを一つひとつ「自分ごと」にしてきた小松さん。小松さんが見つけた「浦幌で暮らす意味」は?
「地元の子どもたちが浦幌で暮らしたいと思ったときに、浦幌で暮らしていけるビジョンを見せられるようにすること」
生きていく選択肢の中に、当たり前のように浦幌が入るようにしたい。その未来に向けて、小松さんもまた「つつうらうら」から挑戦を重ねていきます。
他人ごとを「自分ごと」にした小松さんの話を聞きながら、浦幌で出会う若い世代がいきいきとしている理由が見えたような気がしました。
浦幌で暮らすことを決めて、自分の言葉で町への思いを語れるのはなぜ? どうして浦幌で出会う人は、「ここで暮らす」「ここで生きていく」と決断できたのだろう?
その答えはきっと、浦幌で「自分ごと」を見つけたから。
自分だけの「自分ごと」を探しに、浦幌に来てみませんか。
浦幌町の仕事や暮らしに関する情報を集めたポータルサイト「つつうらうら」は、こちらからぜひ覗いてみてください。あなたにぴったりの情報が見つかるかもしれません。
【つつうらうらでできること】
・浦幌町の仕事や暮らしについて知れる
・浦幌町で仕事をお試し体験できる
・浦幌町の事業者や求人情報が探せる、応募ができる
・滞在や体験について気軽に相談ができる
この「つつうらうら」は、本文に登場した小松輝さんが立ち上げた会社・株式会社リペリエンスが運営を担当しています。
就労体験の受け入れについても、体験を希望する人と地元の企業との間にリペリエンスが入ってみなさんをサポートするので、安心してご利用ください。
浦幌町で素敵なご縁がありますように!
https://www.instagram.com/tsutsuuraura_official/
取材時期:2021年1月取材
Text by 菊池百合子
Photo by 梶川菜々実・野澤一盛