COLUMN

地域の暮らしを地面の下から支えるプロフェッショナル〜土木の仕事〜

#道東ではたらくの新シリーズ 「#美幌ではたらく powered by 美幌建設業協会」。
美幌町建設業協会の代表的な5業種で働く方への取材を行い、それぞれの業種の役割や働く人の思いについてお伝えしていきます。

第一回目の業種は「土木」業です。
美幌町で創業86年を迎える企業、聖太建設株式会社の工事部 課長 原田 雅也(はらだまさや)さんに、土木業のお仕事内容と、やりがいについてお話を伺いました。

地面の下を工事する「土木」の仕事

 聖太建設株式会社の設立は1936年。今年創業86年を迎えるオホーツク管内でも歴史ある企業です。土木工事とは一般的に、地面の下を工事する仕事であり、聖太建設では、道路工事、下水工事、農業土木工事、河川工事などを行っています。依頼主は北海道や網走市、美幌町など行政からの公共工事がほとんどで、工事現場も網走市内と美幌町内全域です。

工事部の課長を務める原田雅也さん。聖太建設株式会社で働き始めて9年目になります。

 「名前を言ってパッと皆さんが思い浮かぶような有名な道路を新しく作る…という仕事ではなく、住宅街の道路や、下水道などの工事が多いんですよ」と控えめにお話する原田さん。名もなき道路や下水道の工事、それはつまり、地域住民の方々に寄り添った、生活空間を心地よく保つための工事なのです。

現場管理=プロジェクトマネージャー

 原田さんは現在43歳、生まれも育ちも美幌町です。お父さんも建築関係の仕事をしており、幼少期からものづくりに興味があったことから、美幌高校を卒業した後、建設現場の作業員となります。そして、今から9年前、34歳の時に縁あって聖太建設に入社しました。
入社後は、一級土木施工管理技士の資格を取得し、現場管理の仕事を行っています。聖太建設には現在18名の社員が働いていますが、その内13名が一級土木施工管理技士の資格を取得しているそうです。

職場に掲げられた13枚の額縁(写真右上)は一級土木施工管理技士の資格証明書です。資格取得までは一般的に5年ほどかかり、その間は先輩の指導の元、プロジェクトの管理について学びます。

「現場管理の仕事は、工事の計画から完了まで多岐に渡ります。全体計画、発注、工程管理、安全管理、品質管理等全ての工事計画を担当しているんですね。工程通り進むかどうか、全部一人の管理下で行っているんです」と原田さん。
 
 さらに1つの工事は1社で完結することは無く、多くの企業が関わります。基本的には、工事全体を取りまとめるのが現場管理の仕事であり、各種作業をする下請け会社に分かれています。例えば、過去に行った道路工事では、舗装作業に10名、ライン引きに5名、重機作業に3名、土木作業員に5名をそれぞれの企業から派遣してしもらい、現場管理の原田さんを加えた総勢24人で行いました。現場管理の仕事は、全体を俯瞰し、責任をもつプロジェクトマネージャーなのです。 

工事着工までに、完成まで全てをイメージする

現場管理の仕事は具体的にどのようなものなのでしょうか。
まずは、工事までの流れを聞いてみました。

「行政から工事案件の公募があり、受託すると、まずは、工事の計画を作ります。使用する資材や工法、管理方法等全てを明記した計画書を作り、依頼先と調整を進めていきます」。この工事の計画書は150ページにも及びますが、1〜2週間程度で作成したそうです。

「スケジュールはもちろん、例えばプラスマイナス5cmまでの誤差だったよいですよ、とか全部決めて進めるんです」
計画書には、工法なども図解されて丁寧に説明されています。

 計画書と別に作成するのが体制図です。「どの下請けの会社を使うか、作業員は誰で、免許の写しも提出が必要だったり、結構細かいんです。相見積もりをとって、会社を選ぶ必要があるので、こちらは2〜3ヶ月くらいかかっちゃいますね」。

 計画書と体制図が揃ったら、資材の発注に入ります。工事に使用する資材は特注のものもあるため、納期まで数ヶ月かかることもあります。工事の詳細を全て具体的にイメージし、必要なタイミングに必要な人とものを揃える準備ができたところで、いよいよ工事着工です。

道路の修繕工事、着工!

 工事には様々な種類がありますが、特に思い入れがあるのが道路工事だという原田さん。具体的な進め方についてお聞きしました。

「下水工事が終わっちゃえばマンホールしか見えないんだけど、道路工事は、形として見えるから好きなんです」

 今回ご説明頂いたのは、美幌町の住宅街の道路修繕工事です。
工事は5年計画で行われ、1年毎に町の別の事業者が担当します。住宅街の道路を5つの区画に分け、1年に1区画ずつ修繕していきます。聖太建設ではこのうち2021年に、約170mの区間を担当しました。

工事前の様子。

 「作られてから何十年も経っているんじゃないかな。歩道なんかほらガタガタ、道路も歪んでデコボコです。北海道は冬の寒さで、道路の下の地面が凍りついて膨張してしまうので、こうなってしまうんです。ですので、歩道も含めて綺麗に道路を敷き直す工事をしました」。原田さんは工事の様子を振り返ります。

 工事の手順は、まず、既にあるアスファルトを剥がします。その下には、雨水を流す雨水管や、場所によっては下水管などがあるため、そういった管類を撤去して、新しい管に繋ぎ変えます。次は、凍上(とうじょう:凍結により氷の層ができ、土壌が隆起すること)を防ぐために、80cmほど地面を掘り進めて、排水性のよい火山灰などを敷き詰める、凍上抑制層を作ります。その上に砂利を敷き、アスファルト舗装をして、最後に縁石を並べて歩道を復旧します。

 工事の間、原田さんは、状況写真を撮影し、作業員に指示を出し、作業後は指示通りの作業ができているかを測量しながら確認し続けます。そして、その様子をまとめた作業記録を作成していきます。

工事現場で時々見かける「ポールを立ててカメラみたいなものを覗いている人」。あの人の正体はは、大体測量中の土木施工管理技士だそうです。

 「6月から11月まで5ヶ月をかけて170mの道路を補修し、工期の遅れもなく進めることができました」と原田さん。大きなプロジェクトをトラブルなく進められるのは、当たり前のことではなく、事前の綿密な計画と、日々の様々な管理の賜物なのです。

工事後の様子。綺麗になりました。

土木工事の難しさと魅力は

 道路工事の難しい点は、一日どのくらいの距離を進めるのか、天候や状況を読むことだと言います。「住民の方の生活道路なので、穴を開けっ放しにしてしまうと住民の方にご迷惑をかけてしまうんです。天気により作業の進捗に影響が出ることもあるので、その日の内に工事が完結するように注意しながら進める必要があります」。

 また、工事後数十年と残る仕事だからこそ、手は抜けません。「例えば、道路に水たまりができているところは、土が均一に入ってなかったなどのちょっとしたミスが原因だったりするんです。道路も下水も、長い年月残り続ける仕事だからこそ、本当に、ごまかしが効かないんですよ。…でもやっぱり仕事が形に残るってことは嬉しいですよね。それで、地域の方に喜んでもらえることもこの仕事の魅力の1つです」と語る原田さんの言葉に熱がこもります。

「暑い日に、ジュースの差し入れと共に『ご苦労様』とかけてもらう一声が嬉しかったりするんですよ」

 道路や下水といった全ての地域住民に関わる社会インフラ。普段使うものだからこそ「あるのが当たり前の状態」を維持しておくことが重要です。

変わる現場とこれから求められる人材

 残り続けるからこそ、手抜きやミスが許されない土木工事。重機や測量など熟練した職人の技が光る現場ですが、現在その様子は変わりつつあり、他の分野と同様にICT技術が進んでいます。例えば業界全体では、ドローン測量や、重機に設計図を読み込ませ、掘る深さをGPSで設定できるマシンコントロール、設定した数値以上に深く掘ろうとするとアラートが鳴るマシンガイダンスなどが導入されはじめています。

こういった取り組みは『情報化施工』と呼ばれ、町内ではこれから取り入れようとしている企業が多い状況です。

「例えば聖太建設では、既に三脚を使わずにスマホのような装置で歩いて測量する機器を導入しています。もちろん職人としての技術はあったほうがよいですが、ICT技術を使い慣れてしまえば相当楽に作業できますし、もしかしたらゲームのような感覚で工事作業ができるようになるのかもしれません。職人の習熟度をフォローする環境が整ってきているんです。だからこそ、新しいことに積極的な若い人は向いていると思いますよ」と原田さんは土木業の未来を見つめます。

 最後に、原田さんに土木業に興味がある方に向けたメッセージを頂きました。

自分でものを作ることに興味がある人は向いていると思います。実際に残り続け、たくさんの人が使うものを作る仕事はなかなかありませんし、大きな達成感が得られます。ご興味がある方は、ぜひ、土木業で一緒にはたらきましょう!

道路や下水など、多くの人が長年使い続けるからこそ、手抜きは許されない。
地域住民に寄り添い、当たり前の暮らしを下支えする仕事

そんな、誇り高い仕事に、あなたも挑戦してみませんか?

「#美幌ではたらく powered by 美幌建設業協会」。
美幌町建設業協会の代表的な5業種で働く方への取材を行い、それぞれの業種の役割や働く人の思いについてお伝えしていきます。

地域や私たちの「当たり前の日常」を作る仕事、それが建設業。
建設業界にご興味ある方はもちろん、みなさんもぜひこのシリーズを読んで、建設業の価値や役割について考えてみてくださいね!

写真:東條 直也

取材・文

百目木(どめき)幸枝

青森県八戸市出身。秋田県立大学、北海道大学院修了後、東京の研究開発ベンチャーで8年働き、2019年夫婦で退社&息子出産&北海道網走郡美幌町で農業研修開始。2022年の就農に向けて「さいこうファーム」の設立準備中。夫婦で編集執筆ユニット「再考編集室」を結成し、地域や人の豊かさを日々発信しています。
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