COLUMN

北海道のライフライン「道路」を守るプロフェッショナル~維持管理の仕事~

#道東ではたらくの新シリーズ「#美幌ではたらく powered by 美幌建設業協会」。
美幌町建設業協会の代表的な5業種で働く方への取材を行い、それぞれの業種の役割や働く人の思いについてお伝えしていきます。

第二回目の業種は「維持管理業」です。
美幌町で創業51年を迎える芙蓉(ふよう)建設株式会社の維持次長 中本聡司(なかもとそうし)さんに、維持管理業のお仕事内容と、やりがいについてお話を伺いました。

「安全な道路」を守る仕事

 今回ご紹介する5業種の中でも「維持管理」という仕事をイメージできる方は少ないかもしれません。

実は、私たちが毎日使っている「道路」を日々管理し、安全に通行できる状態にしているとても身近な仕事です。

日本中の道路全てにそれぞれ維持管理を担当する会社が存在しており、芙蓉建設では、網走開発建設部からの発注を受けて北見道路事務所監督の元、国道39号線、国道240号線、国道243号線の合計81.4kmの維持管理を行っています。

▲道路を走っていると時々見かけるこういった看板。実はここが維持管理業の現場です。
▲道路脇の斜面に生えた木の伐採作業現場にお邪魔しました。倒木などを未然に防ぐ目的で
行っています。中本さんの「いいよー!」という声でチェンソーが動き出します。
▲なるべく交通規制をかけないように大きな機械は使わず、伐採や運び出しなども、
できるだけ人力で行ってるそうです。
▲一級土木施工管理技士の資格をもつ中本さんは維持工事現場代理人として、
各種調整や、作業員への指示、作業現場の記録、報告書の作成などを行います。

交通手段の選択肢がある都会とは異なり、道東は「車がないと生活できない」地域です。そして忘れがちですが、そこには安全に走行できる道路の存在が必要不可欠。それを維持しているのが中本さんらのお仕事です。

多様な現場に対応するプロフェッショナル集団

 中本さんのご出身は北見市。高校卒業後、ガソリンスタンドでスタンドマンをしていましたが、先輩からの紹介を受け、維持管理業の世界に入ります。「当時建設業への興味はありませんでしたが、結局26年もこの仕事をしています」と中本さんは照れ笑いを浮かべます。具体的な年間の作業内容についてお聞きしました。

▲気さくなお人柄の中本さん。

 中本さんたちは、ドライバーが安全に道路を通行できるように、1年を通して様々な作業を行います。その仕事内容は多岐に渡り、例えば2日に1回の全線パトロールの他、春はゴミ拾いや路面清掃、夏から秋にかけて道路脇の除草や危険な木の伐採、標識など道路の付属物の管理、各種点検、冬は除雪が主な仕事となります。

▲この黄色い車、よく見かけますよね。
道路パトロールカーで2日に1度、全線のパトロールを行っています。
▲雪解け後、春先には、担当路線の市街地の歩道を人力で清掃します。
▲道路の下にも光ケーブルが通っていることを知っていますか?水が溜まってしまうと
点検作業に支障が出るため、年に1度確認して、必要であれば排水を行っています。
▲「あ、ここの標識、いつの間にか綺麗になってる」。そうなんです。
道路標識の補修作業も維持管理の仕事です。
▲冬季の除雪作業。ロータリー除雪車を使って、道路脇の排雪作業を行います。

 これらはほんの一例です。驚くべきことに、これらの多様な仕事の多くは、専門の技能者を使わず、会社のスタッフと数人の下請けの土木作業員で対応しているそうです。その理由は、下請けの作業員を雇用する際には調整が必要で時間がかかるからです。突発的な事故や天災への対応も求められる維持管理の仕事は、即時に現場に対応できることが重要です。つまり維持管理業で働く人たちは、道路を安全に走行できるように多様な技術を習得し、現場対応するプロフェッショナル集団なのです。

▲「自分が経験したことしか教えられないので、何事も
まずは自分で体験してみて指導にあたります」と中本さん。

最優先事項は「人命」

 維持管理の仕事は、どのようなスケジュールで行われているのでしょうか。
基本的には年間の作業計画があり、北見道路事務所の監督員と打ち合わせをしながら、仕事を進めていきます。

▲モニターに映る作業計画書には、年間の作業内容がズラッと並びます。

しかし、年間業務と並行して、交通事故や自然災害などが突発的に起こることもあります。

「そういう場合は、人命に関わる現場を最優先します。難しい点は、毎回、現場の状況が異なるということです。その場で工法や規模感、機械などを選定しないといけないんです。人命を優先して、作業内容が異なってくるので、他の建設業と異なり、図面がない仕事と言ってもいいかもしれません。最短の工法で、なるべくお金をかけず、でも後で直さなくてもいいように、そして何より安全な通行ができるようにその都度判断していくのが、やりがいのある点だとも感じています」と中本さんは語ります。

▲土砂の流入など緊急時には現場に駆けつけ、復旧作業を行います。

ライフラインを死守する冬の除雪作業

 「1年を通して様々な仕事ができるので飽きませんよ」とにこやかな中本さんですが、一番思い入れがある業務は冬季の除雪作業です。
町中はもちろん、担当する区間であれば山間部の路線の除雪も行います。除雪トラックで雪を道路脇に寄せ、ロータリ除雪車で道路外に吹き飛ばしていきます。他にも様々な重機を使って、安全な路面となるように作業をしていきます。

 「この作業ってきりがないんですよね。綺麗にしても雪が降ったらまたやり直し。長時間で重労働という面もあります。しかし、除雪はライフラインの維持に繋がります。例えば、事故が起こった際には、車道と歩道を確保しないと救急車がギブアップをしてしまう可能性もあるんです。大変だからといって決して止めるわけにはいきません」。

▲除雪トラックでの除雪作業。誰かがやらなければいけない重要な仕事の1つです。
▲道路上のサインなどに積もった雪は人力で対応します。
▲車庫には、除雪トラック、ロータリ除雪車などが並びます。これらは最新式の官貸車両(網走開発局建設部からの無償貸付機械)です。
ちなみに、作業車の運転には大型免許や大型特殊免許が必要ですが、入社後に美幌町の補助を受けて取得することが可能です。

 さらに道内でも道東ならではの仕事について、こう話します。
「春先に行う路面清掃では、道路縁の細かい砂を路面清掃車で掃除するのですが、実はこれは冬季に、薬剤と砂を混ぜて滑り止め効果のある凍結防止剤を散布しているためです。釧路や帯広など雪が少なかったり、最低気温が高いところは融雪剤を散布をするのですが、道東は気温が低いため、1度融かしても再凍結する可能性があるんです。ですので、物理的に滑り止めになる砂を混ぜています。春にはその砂が路側に堆積します。そのため、夏には、排水の目詰まりやスリップ事故の原因ともなるため、市街地の歩道は人力で、郊外の歩道は散水車で、車道は路面清掃車で清掃しています」。

▲凍結防止剤散布車で、防滑材と凍結防止剤を散布する様子。
▲路面清掃車で路側の砂を掃除する様子。
▲傾斜地などにひっそり佇む緑色の砂箱。北海道民ならよく目にしますよね。
中には、誰でも使える滑り止めの砂が入っていますが、その補充作業も行っています。

 安全な道路であること自体が当たり前であるため、その作業内容の重要性が伝わりづらく、「ありがとう」と言われることももしかしたら少ないかもしれません。
だからこそ「安全な道路を守っているという誇り」がこの仕事を支えているのです。

完成がない仕事

 維持管理業の未来はどのようなものなのでしょうか。「道路の維持管理業は道路を存続する上で無くなりようがないものです。例えば不景気だからといって事業が途切れることはありません。一方で、現場は常に人手不足という課題があります。そのため、業界をあげて、週休二日制の推進や、最低賃金を上げるなど働きやすい環境づくりに力を入れています」と中本さんは話します。

▲中本さんご自身も、若手にも熟練スタッフにとっても気持ちがいい
現場になるように心がけています。

 最後に、中本さんに維持管理業に興味がある方に向けたメッセージを頂きました。
「例えば、道路工事は『着工』があったら『完成』があるじゃないですか。でも私たちの仕事は、年間を通して常に様々な仕事があるんです。完成がない仕事だなと感じます。ほら、除雪にもパトロールにもゴミ拾いにも伐採にも完成がないでしょう。でも、作業が1つ終わるごとに達成感があるんです。例えば、晴れた日に、綺麗に除雪が終わったらすごく気持ちがいいんです。作業が一個終われば、やった効果が感じられるのが嬉しいんですよ。私たちは道東のライフライン『道路』の安全性を維持する仕事をしています。1年を通して様々な業務があり、飽きずにスキルアップができます。また、最先端の様々な特殊車両や機器を使うことができるので、そういったことに興味がある方はぜひ一緒に働きましょう!」

安全に通行できる道路。その陰で黒子のように活躍するプロフェッショナル集団がいます。
そんな、誇り高い仕事に、あなたも挑戦してみませんか?

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「#美幌ではたらく powered by 美幌建設業協会」。
美幌町建設業協会の代表的な5業種で働く方への取材を行い、それぞれの業種の役割や働く人の思いについてお伝えしていきます。

地域や私たちの「当たり前の日常」を作る仕事、それが建設業。
建設業界にご興味ある方はもちろん、みなさんもぜひこのシリーズを読んで、建設業の価値や役割について考えてみてくださいね!

写真:中西 拓郎

取材・文

百目木(どめき)幸枝

青森県八戸市出身。秋田県立大学、北海道大学院修了後、東京の研究開発ベンチャーで8年働き、2019年夫婦で退社&息子出産&北海道網走郡美幌町で農業研修開始。2022年の就農に向けて「さいこうファーム」の設立準備中。夫婦で編集執筆ユニット「再考編集室」を結成し、地域や人の豊かさを日々発信しています。
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