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【入社記念対談】”住むと決めた場所で楽しく生きる”ために、つながった点と点。 | 中西拓郎×荒水悠太

2024年12月1日から、ドット道東にボードメンバーとしてジョインしたコピーライターの荒水悠太。ドット道東のビジョンや、ステートメントなど、立ち上げ当時から外部パートナーとして、さまざまなコピーを手がけてきました。

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しかし、代表の中西と荒水の出会いは、ドット道東の設立よりも前の2015年にまでさかのぼります。荒水が中西と知り合い、ひとりのクリエイターとしてドット道東に関わり、時を経て“仲間”としてともに働くことになるまでに、どのような交流があったのでしょうか。思い出話に花を咲かせる中で、話題はドット道東における道東”の解釈へと踏み込みます。代表の中西が考える、“仲間”とは、そして“道東とは”――。

ドット道東は「道東だから打席に立てる」を経験させてくれた場所

中西 このたびはドット道東にジョインしてくれて、本当にありがとうございます。実は荒水くんと初めて会ったのは2015年で、ドット道東のどのメンバーよりも先に知り合っていたんですよね。当時の荒水くんは札幌に本社がある広告代理店に所属していて、転勤で北見に来ているタイミングでした。あの職場はもう前前前職になりますか?

荒水 RADWIMPSみたいな(笑)。当時は自社で制作したフリーペーパーや新聞、チラシといった主に広告の営業をしていました。あるお店の方に「うちの媒体に広告を出しませんか?」と営業しに行ったら、「今はこの媒体に広告を出してるからごめんね」と言われた雑誌が、拓郎さんが当時制作していた『道東をもっと刺激的にするメディア Magazine 1988』だったんですよね。会う前から「こんな雑誌を作っている人がいるんだ」と間接的に知っていました。

▲中西が2015年から刊行してきた『道東をもっと刺激的にするメディア Magazine 1988』

中西 時を経て、まさか一緒に働くことになるとはね。荒水くんの経歴について、改めてお話いただいてもいいですか?

荒水 北海道の札幌市で育って、大学を卒業するまで札幌で過ごしました。大学卒業後は北海道に拠点を持つ広告代理店に入社して、北見と釧路への転勤を経験します。その過程で、北見に住んでいた拓郎さん、釧路に住んでいたちひろさんか志こさんと出会いました。

当時は営業職で、広告媒体への掲載提案が主な仕事でした。ただ、北見でお客さんと話をしている中で、「この提案はお客さまのためになっているんだろうか」と思うことが多々あって。拓郎さんのようにおもしろそうな取り組みをしている人にも影響を受けて、自分の働き方を見つめ直したいと思ったんですね。自分にできそうなことを考えていった先でたどり着いたのが、のちに本業となるコピーライターでした。

釧路に転勤したタイミングで、コピーライティング講座に通い始めたのが2018年頃。時同じくしてドット道東が立ち上がり、キャリアがほとんどない状態であったにもかかわらず、自分のコピーを採用してもらえたんですよね。今でこそコピーライターを名乗れるようになりましたが、いろいろな経験を積ませてもらう中でコピーライターに“してもらえた”のが、ドット道東とのお仕事だったなと思います。

中西 うまいこと言いますね。荒水くんはドット道東のビジョンである「理想を実現できる道東にする」をはじめとしたステートメントをぜんぶ書いてくれて。会社として発信していくメッセージを組織の成長に伴って再策定しているところですが、ビジョンだけは当時と同じものを掲げ続けています。

“理想の道東”という1つの像を作っていくのではなくて、「みんなの理想が叶っている状態が、理想の道東だよね」というニュアンスが込められている。それを最初に言い当ててくれたのがまさに荒水くんなので、本当にありがたかったなと思うし、僕らもあのビジョンのおかげでここまで来られたなと思っています。

荒水 最初はドット道東からデザイナーの佐藤翔吾にロゴマーク制作の依頼があって、ステートメントは僕たちが勝手に提案したものだった気がするんですよね。

中西 確かに、名刺を作るにはロゴが必要だとは思っていたけど、ビジョンやステートメントを作るっていう発想自体がなかったかも。

荒水 「勝手に作ってみたんですけど」と提案したら、「そういうのあったほうがいいよね」と言ってくれて。「いや、こういうのはちょっと」とならないところが“ドット道東らしさ”ですよね。そこから少しブラッシュアップして、現在の「点がつながる。道東のあたらしい輪郭になる。」になった。

ステートメントを書いたのは初めてだったのですが、ドット道東のホームページにも大きく掲載してもらったおかげで、他のお客さんには少し自信を持って提案しに行けるようになりました。

中西 めちゃくちゃいい話じゃん!

荒水 拓郎さんがいつも言っている「道東だから打席に立てる」を、ドット道東に経験させてもらったなと。
中西 誰かの理想につながる一歩目を後押しすると、理想が叶った人は「じゃあ自分も次は誰かのなにかを応援したいな」という想いになっていくという“理想の連鎖”がドット道東の活動の核にある気がしていて。だからドット道東に関わったことをきっかけとして理想の一歩目を踏み出した荒水くんが、こうして仲間になってくれたことは改めて感慨深いです。

「はじめてなのに、再会みたいだ。」に込められた道東ならではの切実さ

中西 荒水くんの名コピーはいろいろなところにあるけど、その一つが『.doto』のカラフトマスカバーの表紙のコピーだよね。

北の大地の水族館で館長を務めている山内創くんが撮ってくれたカラフトマスの写真に、荒水くんが考えてくれた「はじめてなのに、再会みたいだ。」というコピーを載せたんだけど、これがとくに秀逸だなと思っていて。

デジタルが生活に普及した現代において、SNSでお互いについて知っていても会ったことがない人はたくさんいる。「初めて会ったけど再会みたいだね」という言葉に喜びとリアリティが詰まっているというか。

さらにカラフトマスは主に道東で獲れる魚で、稚魚のときは海で過ごして、成魚として川を遡上してくる。同じ魚でありながら姿かたちを変えているというダブルミーニングになっている点でも秀逸です。

荒水 しかも写真ありきで考えたコピーではないんですよね。もともとは拓郎さんが話してくれていたように、SNSでいろいろな人の活動を見ていて、すでに会ったり行ったりして何年も付き合っている気になっているのに「実はリアルで会うの初めてじゃん」という不思議な感覚を表現しようと思って書いたコピーでした。

『.doto』もものすごい情報量や熱量がある媒体なので、これを読んで掲載されている場所を初めて訪れた人も、昔からずっと知っていたような感覚になるだろうなと思ったんです。それが写真と合わせることによって、意味がさらに広がって良かったなと思います。

中西 本当に素晴らしいですよ。とくに道東はエリアが広くて会いに行きづらいからこそ、僕らが出したガイドブックが重要なツールになった気がしていて。

人口密度が高いエリアに行くと、情報が溢れていて出会いもたくさんあるから、プライオリティが下がりそうだけど、そうじゃない土地で出会えたからこそ仲間になれたというか。孤独感を抱いているゆえに出会いを渇望していて、実際に出会えたときの喜びも大きい。あのコピーからは、そうした切実さも感じられるよね。

荒水 そうですね。自分も生まれ育った札幌を離れて道東に来たときに、なにもないところから自分自身で行動を起こさなければいけない大変さをうっすら感じていて。それと同時に、そうした環境に向き合って行動を起こしている人のすごさも、当時から身に染みて感じていました。

道東に住まなくても、道東を通じて豊かになることはできる

中西 ボードメンバーの中では「どこまでがドット道東なのか」という議論もよくしているんだけど。荒水くんのジョインについても、遠く離れた場所からグッと入ってきてくれたというよりは、もともと自分たちの仲間だった人との関わりのグラデーションが濃くなったという感覚のほうが近くて。

荒水 ひとりのパートナーとしては北見や釧路に住んでいた頃からのご縁で関わらせてもらっていましたが、今回はそこから一歩踏み込んだかたちになりますよね。

僕自身もドット道東の取り組みに憧れていましたし、一緒にやっていきたい気持ちはもちろんあったのですが、僕は結婚を機に札幌に戻ったので、「自分は道東に住んでいないしな」と諦めていたというか。要するに、道東に根を張らずにドット道東の一員として活動するのがリアルじゃないと思っていた節があるんですよ。

そもそもドット道東の活動の根幹には、「住むと決めた場所で楽しく生きたい」という想いがあるじゃないですか。

中西 荒水くんが書いてくれた「理想を実現できる道東にする」というビジョンに続くステートメントの一行目にある言葉ね。

これは「好きな場所だから住む」という話ではなくて、「住むと決めた場所を好きになれるよう楽しくしていけるかが勝負」という意味で使っていて、講演でも「置かれた場所で咲くことは誰にでもできるし、そのための努力は全員したほうがいいはずですよね」と強調して伝えるようにしている。

でも、そもそもの前提として”住むと決めた場所”が道東じゃないとダメなんじゃないかと思ったということだよね?

荒水 そうなんですよ。僕が日常で感じていることや周りで関わっている人たちが道東に根ざしていないと、ドット道東のメンバーとしてリアリティが宿る発信ができないんじゃないかと思っていました。だから自分がボードメンバーとしてジョインすることはあまり想像していなかったんです。

僕もいろいろ考えて、子どもが生まれるタイミングで家庭に集中するために退職して、転職エージェントに登録して、就活とかもしたんですよ。そうすると、自ずと自分のやりたいことを改めて言語化することになりますよね。

家庭との両立を考えて自宅でできる仕事がいい、時間の融通が利いたほうがいいという条件はもちろんなのですが、家族や生まれた子どもが自分の仕事を見て「楽しそうだな」「おもしろそうなことをやってるな」と思ってもらえるか、社会的に意義のあることができるかといった軸が出てきて「あれ? それってドット道東じゃない?」と思って。

▲2024年6月に札幌で開催された「リトルドートー」

そんな矢先、札幌でちょうど「リトルドートー」が開催されたんですよね。そのときに自分の現状をみんなに話したら「いつでも待ってるよ」と言ってくれて。半分冗談だったかもしれないのですが「自分は道東に住んでいないことを気にしていたけど、みんなにとっては大きな問題ではないのかも」と思えたんですよね。

中西 確かに「住むと決めた場所」と書いているんだけど、「住まなきゃダメだ」ってことでもないと思ってて。やっぱり「住む」って1番ハードルが高いことだから、「住まなきゃダメ」だと、かなり零れ落ちるものがあるじゃない。

ドット道東としてやりたいことは「“道東”の拡張」で、道東に住んでいなくても、道東の出身者や道東が好きな人、道東に以前住んでいて思い入れがある人といった人たちの“関わりしろ”を作っていくことがすごい大事なんだろうなって。

荒水 必ずしも地形としてだけではなく、概念としての道東や道東に関わる人の分布が広がっていく感じですよね。

中西 そうだね。一体感が出てくる、みたいな感じかな。自分が道東に関わることで、自分の人生が豊かになっていく、やりたいことができると思えると、それは「理想を実現できる道東」なわけじゃん。「住むと決めた場所」に関しては、荒水くんの場合は札幌だとしても、道東に関わることで自分の人生が豊かになったなら、「住むと決めた場所で楽しく生きる」ことになる。だから全く矛盾しない。

荒水  「道東」の概念が道央まで広がっていくだけかもしれない。

中西 しかも、それがさらに“ドット”として点在しているのが面白いよね。「東京にもいるよ」とか「国を超えてもいるよ」とか。道東の名のもとにみんながつながっていけるとか、そこに対してアプローチしていけたら、人口は減っていても関わる人が増えて、関わる時間の総量が増えて、もっと言うとお金が増えていくことにもなると思う。住んでいる人はもちろん、関わる人も豊かになる相互関係の中にあるよね。

荒水 札幌に住んでいる自分にとっても「理想を実現できる道東」であることは変わりないってことですよね。

▲2018年設立当初のボードメンバー

中西 それを最初に書いてたの、すごくない? 五年前に書いてもらったビジョンに、時を経てもここまで拡大解釈できる懐の深さがあったなんて。もっと評価されたほうがいいよ。

荒水 確かにそう言ってもらうと、そう思えてくる(笑)。でも、あの言葉に落ち着く前に、拓郎さんからちょっとだけフィードバックがあったじゃないですか。

最初は「道東を理想が実現できる場所にする」というニュアンスだったんですけど、「これだとモチベーションが高い人たちが集まってくるような、道東を理想を叶えるユートピアにしよう!という面が強調されちゃうよね」と。

それよりは「道東で住んでいて、『これができない』『あれができない』というマイナスからのスタートをプラスにできるような場所でありたいんだよね」とサラッと言ってくれて。そのブラッシュアップがなかったら、僕のような立場のボードメンバーは入っていなかったかもしれないですね。

中西 褒め合いだ(笑)。そんなチューニングもしながら作り上げていったんだね。

荒水 今回こうしてボードメンバーになれたことで、ドット道東の言葉に関われる機会が増えるのがすごく楽しみです。

中西  めっちゃ期待してる!道東でこういうことをやりたいといった希望はありますか?

荒水  コピーライターはできあがった広告に、かっこいい言葉を一行入れるだけじゃないということを知ってほしくて。ドット道東が組織としての第一歩を踏み出すタイミングで、ステートメントを作ったように、自分が何かを始めようとするときに、それを言葉で一度整理してまとめたり、外に発信したりすることは前に進む力になると思っています。

たとえば「会社をを立ち上げようと思ってるんだけど、イメージが頭の中にしかなくてさ」というときに実はコピーライターが役に立てるのかもしれないなと。これから新しい商品やサービス、ブランドを作っていくときに思い出してもらえるとうれしいですね。

中西 やっぱり立ち戻れる指針があることってすごく大事だなって。自分たちも「理想を実現できる道東」にするという指針があったから、やるべきこととそうでないことをジャッジできたし、何のために自分たちがいるのかという存在意義が明確になった。

それは究極的には「どうしてここで生きているのか」にもつながることで、そこが明確になると組織としての足腰がしっかりすると思うから。そういう発想が道東にカルチャーとして定着するといいのかなと思ってます。道東のコピーライターってほとんどいないと思うし。

荒水  僕がお手伝いすることで「道東の企業や人の言葉ってどれもいいよね」と思ってもらえたら、エリア全体が面白く見えてくる。遠い道のりですけど、自分がそこまで関われたらうれしいなと思っています。

ライター

佐々木ののか

1990年生まれ。筑波大学卒業後、東京の老舗カバンメーカーにて1年間勤務ののちに退職し、フリーランスとして独立。インタビューを中心としたライティング業務を幅広く承っているほか、新聞や雑誌に随筆・書評を寄稿している。2021年1月から音更町に拠点を移し、猫と馬と暮らしています。著書に『愛と家族を探して』『自分を愛するということ(あるいは幸福について)』(ともに亜紀書房)。

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